「記号」をきっかけに会話が起これば狙いどおり

逆に「あの人が出ていて、こんなストーリーで、若い人から人気の」などと抽象的で、強い「記号」を示せないような話をしても、相手はなかなかわかってくれません。

読者の方もお分かりだと思いますが、先述した「ヒノノニトン」で宣伝をしている日野自動車の2トントラックとは、子どもを対象にした商品ではありません。そもそも子どもは自動車を運転できませんから。

浜崎慎治『共感スイッチ』(中央公論新社)

CM制作を始めた時点では、商売を手がけている街の小売店さん、たとえば酒屋の店長さんがお酒を運ぶために2トントラックを使ってくれたらいいな、などと考えていました。

そうした場合、僕はトラックを買う決断をするその前のシーンを想像します。たとえば、店長さんとお酒を納める居酒屋さんとでやりとりがあったとします。

【酒屋】「そろそろトラックを買いかえようと思ってて」

【居酒屋】「おたくのお店の規模なら2トントラックだよね。どこのを買うの?」

【酒屋】「2トントラックと言えば、トントントントン……」

【居酒屋】「日野自動車か! あのCM、ほんとにおかしいよね」

CMをきっかけにそんな会話が生まれてほしいと考え、イメージを膨らませていきました。

普通2トントラックについて話をするなら、走行性能や燃費などがまっさきに話題に上りそうなもの。ですが、ここでは「トントントントン」という強い「記号」が、そういった機能的な話をとりあえず後方へと追いやっていることになります。

そして、もしそういう会話が起こったとすれば、それはある意味でCMディレクターである、僕の狙い通りでもあるのです。

CMは「はじめまして」の挨拶と似ている

どんなCMだろうと必ず「初めて」見てもらう瞬間があります。それは見てくれた人に「初めまして」と挨拶をするような瞬間だと思っています。

「私、こういう者です」

名刺を出して初対面の挨拶。言わずもがな、これはとても大事な場面です。相手に失礼な印象を与えて嫌われるわけにはいかない。でも相手の記憶に少しでも残りたい。