胃潰瘍
今どき胃潰瘍で手術を勧める医者はいないでしょう。胃壁に穴があく「穿孔」まで進行しない限り、手術を行うケースはまずありません。出血がひどい場合に内視鏡手術で止血するくらいです。
胃や十二指腸に潰瘍が見つかった場合は、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプインヒビター(PPI)やH2ブロッカーという薬で治療するというのが常識です。薬物治療できれいに治るようになった結果、穿孔まで悪化する例は滅多に見られなくなりました。
薬を飲む際にヘリコバクター・ピロリ菌の検査をして陽性であれば、治療と同時もしくは治療後に除菌治療を行うと、再発率が1~2%に下がります。
盲腸
一昔前、「アッペ(盲腸)」の手術件数が一般外科医のステータスだった時期がありました。しかし今は抗菌薬を投与して経過観察です。炎症が治まれば治療は終了。再発して手術が必要になる確率は2割程度ですから、まともな医者なら、あせって手術を勧めることはありません。
手術をすると決まった場合「傷が小さいから」「短期間で回復できるから」と腹腔鏡手術を勧める医者がいます。
これはちょっと問題です。なぜなら、腹腔鏡手術では内視鏡を入れるスペースをつくるためにお腹をガスでパンパンに膨らませる必要があるからです。これが半端ではなく苦しいので、全身麻酔が必須となります。
全身麻酔は呼吸と血液循環を同時に管理する難しい技術です。稀とはいえ、アクシデントが起きればあの世逝きか植物状態のリスクがあり、専門の麻酔医がいないような病院で腹腔鏡手術を受けるのは考えものです。
開腹手術にせよ、腹腔鏡手術にせよ、技術的な職業というのはとにかく「やりたがり」です。それははっきりしています。患者としては「医者は新しい技を試したがる困った生き物」くらいの気持ちで「お勧め」を聞いたほうが安全です。