心房細動

心房細動は不整脈の一種で、心臓の上半分の「心房」が小刻みにけいれんし血液をうまく送り出せなくなる病気です。ポンプ機能に異常が起こる心室細動と違って直接、命に関わることはありません。

問題は心房のなかでよどんだ血液が血栓(血液のかたまり)になり、それが血流に乗って脳の太い血管を詰まらせることです。巨人軍の終身名誉監督である長嶋茂雄氏が倒れたのも、この心原性脳梗塞が原因。年齢があがるにしたがって脳梗塞リスクが上昇するので、心房細動持ちは、ほぼ心原性脳梗塞を発症する、くらいの気持ちでいないと危険です。

従来は心房のなかで血液が固まるのを防ぐ抗凝固薬を一生飲み続け、脳梗塞を予防するしか方法がありませんでした。しかし今は、けいれんする心筋を焼き固める「カテーテル・アブレーション」で心房細動そのものが治せます。40~50代で心房細動があるとわかったら、循環器内科を受診してアブレーションを受けたほうがいいですね。

ただ、新しい治療なだけに上手、下手の差が明らかです。現在、日本で行われているアブレーションは年間約5万件、実施施設は約200カ所です。このうち年間300件以上をこなしている施設に患者が集中する傾向があります。一般に実績が多い治療医を選んだほうが技術的には安心です。

ただ、75歳以上の高齢者にはアブレーションは勧めません。薬物治療も考えどころです。もともと高齢者は出血しやすいので、抗凝固薬を飲むと逆に出血性の脳卒中を起こす危険性が上昇します。今は出血リスクが少ない新しい抗凝固薬も出回っていますが、薬価が高いのが玉にキズです。75歳を過ぎたら死ぬ原因なんていくらでもあります。わざわざ高価で危険な治療をする意味はありません。

脳動脈瘤

これには注意が必要です。脳動脈瘤は脳の血管のある部分がコブ(瘤)のように膨らんだ状態で、通常は大きな脳血管が枝分かれする部分に形成されます。この瘤が破裂すると「くも膜下出血」を起こします。

症状の出ない未破裂の脳動脈瘤の有病率は5%と意外に多く、病院のドル箱になっている脳ドックを受ければ、20人中1人に瘤が見つかります。脳ドックの医者は「破裂予防」と称して、開頭手術を勧めてくるでしょう。実をいえば医療は不安産業であり、脳ドックや人間ドックは労せずして患者をつくり出すことになります。

未破裂の脳動脈瘤が破裂する確率は瘤の大きさと、できた場所にもよりますが1年間で1%未満です。一方、頭を開いて動脈瘤の根元をクリップで留める「クリッピング手術」で合併症が生じる確率は、1.9~12%にもなります。私の知人にもクリッピング手術後の合併症で植物状態になり、今も寝たきりという男性がいます。そこまで重度ではなくても、認知機能の低下や動作に軽い支障が出るケースは決して少なくありません。むしろ放置したほうが健康に過ごせます。

脳動脈瘤が破裂した場合の死亡率は約30%なので、瘤の大きさが7ミリ以上で本人の余命が15年以上ある場合は、手術をする価値はありますが、裏を返せば破裂しても7割は助かるわけです。小さな瘤のために無意味なリスクを冒す必要はありません。