企業にかかるROAの圧力
もちろん社債や銀行借り入れにも利回りや金利というコストがかかる。それら社債や銀行借り入れ、そして株主資本などの金額に応じて加重平均した調達コストを「WACC(加重平均資本コスト)」という。つまり、会社が必要とする資金すべてを調達するコストで、企業が最も気にするものだ。
そのWACCと密接な関係にあるのが、資産を使いどれだけ効率よく稼いだかを見る「ROA(総資産利益率)」。「総資産=負債+純資産」であり、WACCで調達した資金の使い道が資産なのだ。つまり資金の出し手には、「自分たちの資金でどれだけ稼いでいるか」を測る指標となる。
「そこでもしもWACCが5%なら、それ以上のROAを稼いでくれという圧力が企業にかかる」と林さんは指摘する。だから少しでもWACCを下げるため、調達コストの低い銀行借り入れや社債発行を選択しようという心理が働くわけで、トヨタも例外ではない。ある意味で異次元緩和は、その背中を押したともいえる。
また、グローバル化に伴う企業姿勢の変化に注目する公認会計士の山田真哉さんは、「電気自動車や自動運転化などの最先端の技術を取り込むため、有望なベンチャー企業があれば躊躇なくM&A(買収・合併)を行い始めた。その切り札が手元の豊富なキャッシュで、万が一の際には社債で機動的に確保できるようにしておくのだ」と話す。
その意味で社債市場との“常日頃の付き合い”も重要であり、中空さんは「償還期を迎えたら、同規模の社債を新規に発行して機関投資家などの顧客をつなぎとめておくのが普通。でないと、いざ発行したくても買い手が見つからないという事態になりかねない」という。
トヨタがコンスタントに社債を発行してきた狙いの1つもそこにあるのだ。マイナーなイメージのある社債だが、財務戦略上とても重要であり、トヨタの巧みな社債活用術にぜひ範をとりたい。
BNPパリバ証券投資調査本部長
林 總(はやし・あつむ)
公認会計士
外資系会計事務所、監査法人勤務を経て1987年独立。著書に『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』など。
山田真哉(やまだ・しんや)
公認会計士
中央青山監査法人などを経て、現在は芸能文化会計財団理事長を務める。『女子大生会計士の事件簿』など著書多数。