勝つためには、「正」と「奇」が不可欠

ところが、現実には、あまりにも多くの企業が、このわかりきった地雷を踏んで自滅しています。それは、ここに書かれていることが、あまりにも当たり前すぎるために、忘れられているか、おろそかになっているからかもしれません。

例えば、リストの中に「顧客が求めている価値を提供していない」という項目があります。顧客が求める価値を提供するのは当たり前のことだと思うかもしれません。しかし、自社が顧客に提供している「本当の価値」が何かをわかっていない企業は意外と多いものです。

成功の十分条件はありませんが、地雷を踏まないことは、成功の必要条件であることは確かです。また、地雷の排除作業は、組織力で地道に取り組むことができ、天才の才能やひらめきを必要としません。取り組めば、着実に効果のある取り組みといえます。

ただし、この“地雷を踏まない作戦”には、1つの大きな欠陥があります。それは、地雷を避けるために「あれもダメ、これもダメ」になり、戦略の角が取れて丸くなってしまうことです。角の取れた戦略は、他社と似たものになってしまいます。そうならないためには、あえてリスクを取って戦略を尖らせる必要があります。

かつてのソニーもパナソニックも、リスクを取ることで成功しました。ソニーが取ったのは、世の中にまだないものをつくるというリスクです。多くの失敗を重ねながらも、常に画期的な商品を生み出すことで、高価でも購入してくれるロイヤルカスタマーを増やしました。一方、パナソニックが取ったのは、他社の後追いというリスクです。一般に、最初に市場をつくった先行者のほうが優位ですが、先行品を上回る高品質・低価格を徹底して追求することで、自社の強みに変えたのです。

戦略論の古典『孫子』に、次のような言葉があります。「凡そ戦いは正を以て合い、奇を以て勝つ」(『[現代語訳]孫子』杉之尾宜生著、日本経済新聞出版社)。私なりに解釈すると、「正」(地雷を踏まないという正攻法)によって「合う」、つまり互角になり、少なくとも負けなくなる。そのうえで「奇」(他社がやらないことをやる差別化)によって勝つことができる、ということです。ビジネスを成功に導くには、「正」と「奇」の両方が不可欠だと思います。

▼失敗のパターン
1.「考えるアプローチ/頭の使い方」に起因する失敗
・教科書の理論を何も考えずに使ってしまう
・意思決定の質とスピードのバランスを欠いている
・そもそもの出発点としての論点がずれている
2.ビジネスを立案する段階での失敗
そもそも戦略の筋が通っていない
各論
・顧客が求めている価値を提供していない
・定量的な詰めが甘い
・不確実性・リスクに対処していない

各論で地雷排除をやりすぎた結果、戦略が「尖っていない」
3.ビジネスの実行段階での失敗
・実行に際しての徹底度が足りない
・実行者の意識・行動を変えていない
菅野 寛(かんの・ひろし)
早稲田大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)教授
東京工業大学大学院修士課程修了。カーネギーメロン大学経営工学修士。ボストン コンサルティング グループで十数年にわたり数十人の経営者の意思決定をサポート。一橋ICS(一橋大学大学院国際企業戦略研究科)教授を経て、2016年より現職。近著に『経営の失敗学』。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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