成功は十社十色「必ず成功する必勝法はない」

例えば、トヨタ生産方式で用いられるツールに「アンドン」があります。生産ラインで、現場の担当者が異常に気づいたら、アンドンのひもを引っ張ることでラインを止めることができる仕組みです。従来の常識では、ラインを止めるような重要な意思決定は、ライン長のみに与えられた権限でした。しかし、ラインの異常にいち早く気づけるのは現場の担当者です。その時点でラインを止めて、関係者が集まり原因を突き止めたほうが、不良品の発生を最小限にとどめることができます。

この理屈を聞けば、誰もがアンドンの素晴らしさを認めます。しかし、だからといって他の企業が導入しても、うまく機能しないでしょう。なぜなら、アンドンを機能させるには前提条件があるからです。それは、現場の従業員が「いい仕事をしたい」という価値観を持っていることです。世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいません。「指示されたことをやるのが自分の仕事であり、異常に対処するのはボスの仕事だ」と考える従業員が一般的です。このような意識では、生産効率を下げるというリスクを冒してまで、ラインを止めることはなかなかできません。あるいは、さぼりたいためにラインを止める人が出てくるかもしれません。トヨタでは、その価値観が従業員に浸透しているからこそ、異常を感じたときにラインを止める判断ができるのです。

アンドンを導入するのは簡単ですが、従業員の意識改革とセットで取り組まなければ機能しません。そして、従業員の意識を変えるには長い年月が必要です。こうしたコンテクストを理解せずに、成功例を表面的に真似するだけでは、まず失敗します。

成功例から学ぶのであれば、成功した企業が何をやったかだけでなく、なぜ、それが機能したのか、成功の要件を掘り下げて分析する必要があります。しかも、要件がわかっただけではだめで、その要件が自社で適用できるかどうかを考えなければなりません。そうすると、ほとんどの場合、その成功要件はコンテクストの異なる自社にはあてはまらないということがわかります。

成功は十社十色ですから、「これをやれば必ず成功する」という必勝法はありません。その一方で、失敗は驚くほど似ています。多くの企業が、同じパターンで失敗しているのです。陥りがちな失敗のパターンを整理すると、表のようなリストになります。これらは、失敗することがわかっている「踏んではいけない地雷」です。こうした地雷の排除に、組織として徹底して取り組めば、少なくとも失敗を避け、成功の確率を高めることはできます。