「50代ですと最初は年収1000万円の維持を希望していたけれど、50社も60社も落ち、希望額を大幅に下げて年収300万円でも仕事にありつけただけよかったと満足している人の割合も高いのです。有効求人倍率がバブル期超えといっても平均値には意味はありません。人手が足りない職種もあれば、余っている職種もある。わかるのは人手不足という全体の傾向だけです」
転職後の年収の増減を見ても(図5)転職初年度に年収が上がるのは30代まで。40代からは年収を維持するのは困難という数字がうかがえる。
人手の奪い合いvs仕事の奪い合い
「転職するなら35歳まで」という壁が崩れつつあるとも言われるが、黒田さんは「35歳の壁はある。全く崩れていない」と断言する。
「むしろ転職の老若格差は広がっています。45歳くらいまでホワイトカラーでやってきた人が同じような職種で転職しようと思っても、希望する仕事に簡単に就けるわけではありません。希望者に対して圧倒的に求人数が少ないためです」
偏差値の高い大学を優秀な成績で卒業し、給料もよく将来も安定した一流企業に就職したはずなのに、まさかの早期退職勧告。
「会社という大きな船に乗って働いていれば、一生安泰だった時代は終わっています。強い領主のもとで雇われていれば生き延びられた時代ではすでになく、そもそも強い領主がいない。自分自身が小さい領主になって戦っていくしかないのです」
人口が他の世代よりも多い団塊ジュニア&バブル入社世代は、これからも様々な雇用問題に巻き込まれることは明らか。どう向き合い、どんな準備をすればよいのか。転職を考える前に自分の客観的なマーケットバリューを知ることが必要だと森本さんは言う。
「大企業で育った人ほど変化対応力が乏しく、転職して苦労しているのが実情です。前職のブランドは関係ありません。自分の持っている外で通じる価値、ポータブルスキルは何か。そして変化対応力も含めたマインドセットを正しく自己診断することです」
自己診断ができていないと、自分は年収1200万円の人間だという年収の物差しでしか測れない。
「大企業出身者が、中小企業なんてと上から目線で入ってエラい目に遭うのはよくあることです。大企業では部門分けされていたのが、中小企業ではすべて自分でやらなければいけない。また大手だと部下も偏差値の高い優秀な社員が多く、企業ロイヤルティも高く、やる気もある。転職先でレベルもモチベーションも低い部下をマネジメントするのは実は非常に難しいのです」
年収を軸に転職すると間違いやすいと森本さんは続ける。
「年収を維持できればいいほうで、場合によっては2割くらいダウンしてもいいという覚悟で臨んだほうがいい。むしろ自分が貢献して会社を成長させてゲインを得るくらいの気持ちがないと続かないですね。採用する側にしても高い年収で雇えば期待値も高くなりますから、本人も苦労すると思います」
40代からの転職となると、やはりそれまでの経験を活かせる同じ業界に移るほうがいいのだろうか。