特に、ライザップが赤字企業を多く買収してきたことには懸念が多い。同社の買収戦略は、借り入れに依存している。収益力の低い企業の買収を続けていくと、財務の悪化は避けられない。経済環境が悪化した際、想定以上の減損が発生し、業績が急速に悪化する恐れもある。
ひとつの失敗で屋台骨がぐらつく恐れがある
実際、赤字企業を立て続けに買収するライザップの戦略を、“ダボハゼ投資”ととらえる市場参加者は多い。ダボハゼという魚は、何にでも食らいつく。それになぞらえ、思った企業には何でも投資し、結果的に損を出す投資家を表す相場の格言だ。
現状、同社の成長率は高い。トレーニング・ビジネスと買収企業のビジネスを結合するロジックもある。しかし、成長率が鈍化するとそうはいかない。ひとつの失敗が企業の屋台骨をぐらつかせてしまう恐れがある。買収が損失の原因になるだけでなく、損失挽回のために法令遵守(コンプライアンス)の精神が軽視され、過度な営業行為が進む可能性もある。そうしたリスクの芽は徹底的に摘み取らなければならない。その点でも、プロ経営者を外部から招く意義は大きい。
現時点で、ライザップの買収戦略が無節操か否かを断定するのは難しいが、そう言われる余地があることは確かだ。それは、同社経営陣が真摯に受け止めなければならない。本業の強化に加え、買収戦略の意義、リスクの適正さに関する一段の説明は不可欠だ。その部分で松本氏がどのような役割を果たし、その指摘に瀬戸氏が耳を傾けることができるか否かが問われる。
企業家とプロの経営者の協働により、ライザップが経営体制の変革を通して持続的な成長を実現することを期待したい。それは、わが国の企業が成長にコミットし、変革を進めるための重要なケーススタディとなるだろう。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。