ライザップのビジネスモデルの特徴をまとめておこう。特徴は、人々の自己実現への欲求を刺激し、それへのコミットメントを引き出して収益を獲得することだ。同社は、人間の心理を上手くとらえている。
たとえば、トレーニングを重ねてメタボ体質が改善されると、スリムな服を着ておしゃれをしたいと思うようになる。顧客の体質改善などをライザップはデータで管理する。進捗に応じて、必要な食事メニューや、追加のトレーニングなどが顧客に紹介され、どのような効果があるかが科学的に示される。それを見ると、「もっと格好よくなりたい」と、さらなる自己実現への欲求が駆り立てられる。それが、ライザップへの需要を生み出している。
経営強化に“コミット”するライザップ
このビジネスモデルは、瀬戸社長の実体験に基づいて整備されてきた。これまでライザップは、自己実現を追求する瀬戸社長の野心に基づいて、成長を実現してきたといえる。その点で、同社が自己実現の範囲をどこまで広げ、顧客満足を創造できるか、興味は尽きない。
ただ、買収を通した事業セグメントの拡大など、経営の規模が大きくなるにつれて、リスクが増大する。創業者がすべての意思決定をつかさどることは難しくなる。ポイントを絞り、論理的かつ的確な判断を下すためには、経営者としての実務経験が欠かせない。
それを積むには時間がかかる。自力で必要な能力、思考方法を身に着けるのが難しいのであれば、その能力のある人を招き、学べばよい。カルビーのCEOを務めた松本晃氏が同社のCOOに招聘されたのは、まさにそのためだ。
松本氏は、8期連続でカルビーを増収増益に導いた。その発想はわかりやすい。無駄を省いて、稼働率を引き上げることに注力したのである。端的に言えば、管理会計の理論の実践だ。松本氏は、費用を変動費と固定費に分け、変動費の削減を徹底した。同時に新商品の開発を進め、ヒット商品を創造した。それが稼働率を上昇させた。売上高が損益分岐点を上回れば、利益は増える。これが、カルビー業績拡大のメカニズムだ。
経営者としてそのレベルにまで論点を絞る実力をつけるのは簡単なことではない。事業が拡大すると、あれもこれもと手と付けたがるのが人情だ。瀬戸社長にとって、経営改革案のシンプルさを重視し成果を上げてきたプロ経営者の知見を吸収できる環境は、のどから手が出るほどほしかっただろう。
“おもちゃ箱”からの脱却と次の飛躍
記者会見時、瀬戸氏の笑顔には、念願がやっとかなったという歓びと、さらなる成長への期待があふれていたように見えた。それは、瀬戸社長自ら、成長のために不足している要素を見つけ、さらなる経営能力の向上にコミットしてきたからだろう。社長自ら先達の知見に学び、自らの能力を向上させようとしていることは評価されるべきだ。それは、なかなかできることではない。
松本氏は就任記者会見の場で、ライザップを“おもちゃ箱”に例えた。この表現は印象的だ。表面的には、同社が成長への野心にあふれていることを前向きにとらえたものと映る。しかし、それだけではないはずだ。乱雑にモノが投げ入れられたおもちゃ箱のように、改善の余地が多いともいえる。