旬の過ぎたまんがは事実上死蔵されているだけ
また、世界を見渡せば、デジタルプラットフォームによりユーザーの趣味嗜好にあわせた配信が高度化し、1本100億円という制作費のドラマもたびたび企画されるようになり、コンテンツファンドは数兆円規模に巨大化しています。このご時世に、漫画家と少人数のアシスタントが編集者とセットになって毎週締め切りに追われながらつくった印刷物で生計を立てる、というビジネスが太刀打ちできると思う人はどれだけいるでしょうか。出版社、取次、書店という再販制度に守られた日本独自の仕組みの中で、「子供はまんがを読むものだ」という文化的バックグラウンドにあぐらをかいていれば、状況は苦しくなるばかりです。
もちろん、海賊版サイトは積極的につぶしていく必要があります。しかしながら、海賊版サイトが興隆した理由について考えれば、「一定割合の読者はまんがにお金を払いたくないと思っているのだ」「お金を払ってまんがを読む仕組みがきちんとしておらず、海賊版に競争で負けているのだ」「新しいコンテンツ業界、デジタル商流の仕組みにいまの出版の体制が合致していないのだ」といったことに誰もが気づくはずです。
膨大なコンテンツ資産がある、といっても、旬の過ぎたまんがは事実上死蔵されているだけです。それなら顧客情報と引き換えに、限りなく無料に近い価格で開放し、まんがを読む習慣を広げながら、新作に対してはお金を払うという仕組みを啓発し、徐々に業界全体の構造転換を図っていくことが必要ではないでしょうか。
業界や制度や大企業に配慮しすぎた政治の問題
そして、本来、政府が知的財産戦略として行うべきことは、YouTubeやTwitch、Youkuといった動画配信サービスや、NETFLIX、Amazon Videos、Huluなどのコンテンツ配信プラットフォームの興隆に対して、日本独自のコンテンツ有償配信の仕組みを後押しし、コンテンツ輸出につなげていく方法を支援することであったはずだ、と私は思います。
そのうえで、まんがやアニメの制作に従事する漫画家やアニメーター、イラストレーター、デザイナーなどの地位を高めるための産業政策を考えるべきです。貴重な人材にきちんとした給料を支払い、健康保険や年金の仕組みを整え、不当に搾取されることのない就業プログラムを用意すべきです。一方で、政府がやっていることは、海外で「展示会」を開き、そこにコスプレ姿の女性を送り込み、「日本のコンテンツを売り込んだ」と豪語するだけです。それは制作現場には何も還元されない「取組」です。
課題は明らかです。それにもかかわらず、漫画家やアニメーターは使い捨ても同然の就労環境のまま長年放置されているのは、戦略の不在、政策の不備以外の何物でもないでしょう。同じ問題はプログラマー、SEなど、日本の知的財産を担うすべての職種で発生し、「デスマーチ」が横行しています。海賊版サイトは忌むべき病気の症状であるとしても、病気の原因を作っているのは業界や制度や大企業に配慮しすぎた政治の問題ではないかと強く感じる次第です。