日本のまんが市場は産業としては存在感がない

政府・知財本部の決定は、あくまでブロッキングの「民間事業者による自主的な取組」にすぎませんでしたが、4月23日、NTTグループがブロッキング実施の検討を行うことを表明し、通信業界に激震が走りました。ほかの通信事業者の動きが注視されていましたが、結果としてKDDIやソフトバンクはグループとしてブロッキングを行わないという判断を示しました。NTTだけが突出した判断を示すことになり、実質的にはしごを外された形です。

今後、NTTは政府の方針にあわせたために厄介な訴訟問題を抱えることになりそうですが、それ以上に問題なのは、まんが市場と出版業界のこれからです。実のところ、日本のまんが市場は国内での影響力の割に産業としては存在感のない状態が続いています。

まんが市場は先にも述べたとおり4000億円程度の産業でしかなく、派生先であるアニメ産業も業界外のファンドやテレビ局などのタイアップがなければ生きていけない、いわば副次産業のひとつに過ぎません。日本の知財戦略のうえで、まんがやアニメは、(担当者レベルでのまんがへの思い入れが強くない限りは)重視しようもないというのが実際ではなかろうかと思います。

ローランド・ベルガーの2015年の調査ではコンテンツ市場全体における日本のシェアはわずか2.5%(ただし放送分野を含む)です。そして、その小さい日本のコンテンツ市場において、金額ベースで輸出の8割以上を担っているのはゲーム産業です。極端に言えば日本のまんがもアニメも国際市場という点では見向きもされていません。世界的に「オタクカルチャー」は人気を集めていますが、それらが日本企業の権利収入としてどれだけ結びついているか、という産業政策の面から考えると物悲しいものがあります。

「漫画村」の売上高は年間5億~6億円程度

こうした構造のため、まんがやアニメの海賊版といっても、問題となるのは日本の利用者に向けた日本語でのサービスということになります。その被害額について約4000億円という数字が独り歩きしていますが、海賊版サイトの代表格だった「漫画村」も、さほど売り上げのあるサイトではなかったようです。

海賊版サイトの収入は、「利用者に広告バナーが見られた回数だけ広告料金が支払われる原始的な仕組み」で成り立っています。今回問題になった「漫画村」の場合、サイトに貼られている広告のエンジンは、上場会社からのOEMで技術提供された仕組みが流用されており、外部から「どのくらい広告が表示されたか」というコール回数を観ることができます。

そこから類推すると、「漫画村」およびその関連サイトの一日当たりの閲覧者数はおよそ55万人から70万人であり、うち7割超がスマートフォンからの閲覧で、表示された広告のうち大手通信会社系の電子コミックと大手アダルト会社系のコンテンツに関する広告が約4割だと考えられます。そこに広告掲載単価を掛け合わせると、一番閲覧者が多かったとみられる2017年11月の月間売上高は6000万円程度だと推測されます。2017年の1年間でも、関連サイトを含む広告売上高は年間5億~6億円程度です。サイトの運営には閲覧者にスムーズに海賊版コンテンツを見せるためのCDN代金が月2000万円以上かかりますので、言われているほど大もうけができたサイトではないようです。

こうした海賊版サイトは、サイトに掲載されている広告や、支払いのためのカード決済代行業者のビジネスを止めてしまえば、不採算となり、そう簡単に大きくなることは無いようです。知的財産ビジネスに詳しいとされる弁護士の福井健策氏は、ツイッターで「現場対策がほぼ手詰まりであることは、自ら経験して断言できる」としてブロッキングの必要性を強調されていましたが、それほどの状況ではないと思われます。

海賊版サイト「漫画村」のキャプチャー画像