安倍さんは「敵」だった財務省は忖度しないと誤解した?

近畿財務局という財務省の地方機関が独断で財務省本省を騙し続けたという場合もある。しかしそれはそれで、近畿財務局が本件土地取引の異常性を認識しているということであり、その取引の異常性は、うるさ型の籠池氏の存在や損害賠償請求されるかもしれないというリスクに加え、昭恵さんの存在も起因したことは否定できない。本省が知らずとも、近畿財務局という財務省組織が、昭恵さんの存在を意識して前例のない異例の取引をやったことは否定できない。

仮に佐川氏が答弁調整会議において詳細な事実を把握しないまま国会答弁を行ったというのであれば、それ自体財務省の失態でもあるが、もしそうであれば、何も分からないまま、なぜあのような言い切りの答弁を行ったのか。そこに安倍さんの発言が少なからず影響したことは間違いない。

ただし安倍さんの心境もよく分かる。消費税増税問題では、安倍さんは財務省と闘っていた。財務省は内閣が倒れようがそんなことはおかまいなしに自分たちの主張を押し通す。財務省が、増税しても景気に影響がないと安倍さんに間違った説明をしたり、増税が必要という世論作りを必死にやっていたりしたことは周知の事実だ。

政治家は役所と闘う場面がある。役所も政治家の寝首を掻いてくることがある。これが政治の現実だ。だから安倍さんとしては、財務省が俺のことを忖度するわけがない、と思っているのかもしれない。しかし役所は政治的に弱い者とは闘うが、政治的に強い者には忖度する。安倍政権発足時には、最強の官庁と言われる財務省はいつもの通り政権と対峙する意気込みだったのであろうが、内閣人事局も動き出し、数度の国政選挙での圧勝という結果によって安倍政権は財務省が忖度する存在に変わったことも事実だ。

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森友学園問題が発覚したときに、昭恵さんが学園と関係が深く、名誉校長にも就任していたということであれば、安倍さんや安倍政権は本件土地取引の詳細について事実調査をすべきだった。財務省が組織防衛も含めて適正な取引だったと言い続けても、そこに介入して事実確認していくのが政治の役割である。もちろん自分たちでできないのであれば、こういうときこそ第三者を活用し、本件土地取引の異常性を認識すべきであった。

何よりも財務省のあの「適正な取引だった」「書類やデータは全て廃棄した」「追加の確認をするつもりはない」という国民をバカにしたような答弁を追認し、その答弁を改めさせなかった安倍政権の責任は重い。

本来であれば、財務省は、本件土地取引の異常性・特例性や、籠池氏が昭恵さんの名前をちらつかせていたことなどを安倍政権にきちんと報告すべきであった。その報告があれば、安倍さんもあのような強気一辺倒の国会答弁にはなからなかっただろう。財務省が安倍さんにきちんと報告できなかったことも、安倍さんの「私や私の妻が関係していたなら総理大臣と国会議員を辞める」という発言が影響していたことは間違いない。

(略)

安倍さんは、昭恵さんの森友学園への関わりや名誉校長就任の失敗を素直に認め、違法性・不正はなくても財務省の忖度があったことを率直に認めるべきである。さらに自身の「私や私の妻が関係していたなら総理大臣と国会議員を辞める」という発言が、この前代未聞の公文書書き換え事件を生んでしまったことも素直に認め、謝罪反省すべきである。麻生大臣のその後の反省のかけらも見えない不遜な言動は直ちに止めさせ、安倍さんの大号令の下、強力な権限を付与した第三者に徹底した調査を行わせるべきである。決定的な証拠が出る最後の最後まで、国会と国民を騙し続けた財務省と、これまで財務省の言い分を鵜呑みにし、調査も何もやっていない今の段階で政権への忖度はなかったと言い切る麻生大臣に、調査する資格はない。

(ここまで約6600字、メールマガジン全文は約2万4000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.95(3月13日配信)を一部抜粋し、事態の推移に合わせ修正および加筆したものです。もっと読みたい方は、メールマガジンで! 今号は《【緊急増大号! 公文書書き換え問題】森友再燃! なぜ財務省は「スーパー忖度」に踏み込んだか?》特集です!!

(写真=iStock.com)
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