仮想通貨ができた、本当の理由

【田原】ナカモトさんはどうしてこういうものをつくろうと思ったのかな。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【加納】彼の論文が発表されたのは、08年のリーマンショック直後。論文には、そのあと行われた銀行の救済はけしからん、中央集権の政府が管理するお金に依存するのではなく、民間の手にお金を取り戻すという思想のもとに開発したと書かれていました。その証拠はビットコインの中に残っています。技術的にいうとブロックチェーンは暗号の連鎖であり、連鎖は最初のタネになるものがあってはじめて起こります。あとから判明したのですが、じつはナカモトさんは最初のタネに銀行救済に対するメッセージを入れ込んでいた。おもしろいですよね。

【田原】国でいうと、どこでスタートしたのですか。

【加納】それは定義できないです。中央集権的な発想なら、発明者がどこに住み、サーバーがどこに置いてあり、会社がどこに登記されているかという話になるかもしれませんが、ビットコインは非中央集権的。7000台のサーバーが世界中にバラバラにあって、全体で1つのシステムです。インターネットはどこの国にありますかという質問と同じで、答えようがありません。

【田原】17年の4月に改正資金決済法が施行されて、仮想通貨が法律に定義されましたね。これは、国が仮想通貨を保証したということ?

【加納】いや、保証ではないです。金融庁も、国が仮想通貨を保証しているといういい方はやめてくれといっています。あくまでも何が仮想通貨で、何がそうではないかという定義をして、その取引を行う事業者を登録制にして金融庁の監督下に置くことになっただけです。

【田原】金融庁が登録事業者を認可するということは、ある意味で国が保証したということではないのですか。

【加納】顧客資産の保護やセキュリティの担保など、事業者にはいくつかの規制がかけられました。保証ではないのですが、利用者から見ると、登録事業者は規制された条件はクリアしているから安心できるという面はあると思います。

【田原】規制といえば、中国は取引所そのものを閉鎖させてしまった。閉鎖したら、利用者は困る。中国はどうしてこんなことをしたのですか。

【加納】中国政府はキャピタルフライト、つまり中国の元がビットコインに交換されて海外に移動することを嫌がったといわれています。

【田原】そうか、ビットコインは国に管理されていない。国境がないから、使おうと思えば世界中で使える。そのことを中国は恐れたわけですね。それで、中国の取引所で換金できなくなったビットコインは、いまどうなっているのですか。日本の取引所に来た?

【加納】一定程度が日本に流入しているという肌感覚はあります。ただ、事実はわかりません。

【田原】ところで仮想通貨はビットコインのほかにもいろいろあります。現在で何種類くらいですか?

【加納】1600といわれています。ただ、その中で本当に価値が生まれているものは数十種類くらいじゃないでしょうか。ほかは1円にもならないようなコインです。いま価値がなくても技術的におもしろいものはあるので、そういったコインを探して値上がりを待つ人もいます。