セクハラで問われるのは会社側の管理責任
この「ワインスタイン効果」や「Me Too運動」は、民間企業ではそれ程大きな動きにはなっていません。しかしながら、タイム誌は「今年の人」を選ぶにあたり、その5人を「サイレンス・ブレーカー(Silence Breakers=沈黙を破った人たち)」と呼びました。この中には、大手配車アプリ運営会社内でのセクハラをブログで暴露した女性や、勤務先の果樹園でのセクハラを暴露した女性が含まれており、今後もこのような告発が拡大する可能性は高いと言えます。
日本企業はどうでしょうか。日本国内においても過労死やセクハラ、パワハラ問題への関心は高まりつつありますが、日本企業の海外法人ではこうした問題が先行して取り沙汰されています。
たとえば1996年には日本企業の米国法人が、約500人の女性従業員から「職場内でセクハラが放置されている」として提訴されました。このケースは米国のEEOC(雇用機会均等委員会)が呼応する形で提訴したため、2つの訴訟が発生しています。
結局、会社側は和解金として、総額60億円以上(当時の為替レート換算)を支払うことになりました。しかも損害は金銭的なものだけではありません。以下のような損害も被ったのです。
・EEOCが提訴することに反対する従業員がシカゴのEEOC事務所前でデモをするという事態となったが、これをさせたのが会社側の意向であったことがその後判明し、批判が拡大した。
・現地法人が拠点を置く州選出の上院議員、下院議員も議会でこの問題を大きく取り上げたため、全米で報じられることとなった。
・連日報道が過熱したにも関わらず、現地法人は広報対応をほとんど行わず、日本本社も現地法人が対応すべきとして、日米ともに広報対応はほぼ皆無であった。
・これらの会社側の対応について、メディアも一斉に批判的に報じたことから、一部では同社製品の不買運動にも発展した。
・日本本社の株価も下落し、国内外の同社製品の販売も減少する事態となった。また、同社の信頼性も揺らぎ、企業イメージも低下した。
この問題は経営の根幹に影響を与える事態となったことから、日本企業の多くがセクハラ、パワハラ対策の必要性を認識するきっかけになりました。提訴で最も大きく取り上げられた問題点は、特定の従業員によるセクハラ行為ではなく、それを放置した会社側の管理責任でした。当時、日本企業の多くは、良好な職場環境を提供するという管理責任の重さを認識したはずです。
ちなみに、同社工場がある小さな町では同社の存在感が圧倒的で、町自体が同工場の操業に依存しているようなところでした。そのため同社も当初はこの問題を深刻に受け止めていなかったようです。しかし、その結果、問題はより大きくなってしまいました。
その後、2006年5月には、日本企業の現地法人の元従業員が、同現地法人社長からセクハラ行為を受けたとして、日本本社、現地法人、現地法人社長の三者を相手取り、個人に対する補償金4000万ドル、懲罰的賠償金1億5000万ドル、計1億9000万ドルの支払いを求める訴訟を起こしています。1億9000万ドルは当時の為替レートで約200億円です。この問題では現地法人社長が辞任し和解金を支払うことで和解が成立しましたが、最終的な和解金の金額については不明です。