これも、現代の世界経済や、日本経済に対する警句といえる。

アダム・スミスの当時の貨幣は、金や銀などの貴金属でできていた。貨幣の価値はすなわち金銀の貴金属としての価値だったのだ。だから国は財政が苦しくなると、金や銀の純度の落ちた貨幣を鋳造し、それを、以前の純度の高い貨幣と同じ価値に設定して流通させた。

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当然のことながら、インフレを招き社会経済は混乱することになる。

この国債累積の問題は、アダム・スミスの時代だけのものではなく、現在にも連綿と続く問題である。

現在は、どこの国でも本物の金銀を使用しているケースはほとんどないので、アダム・スミスの時代のように、貨幣の悪鋳で切り抜けるという手段がない。

では、現代の国債が累積した国は、どうやって切り抜けているかというと、「インフレ」「通貨の切り下げ」「経済成長」などである。

国債を大量に抱えた日本で、「経済成長」と「デフレからの脱却(インフレ誘導)」が声高に叫ばれるのは、「経済成長」と「デフレからの脱却」がなければ財政破綻する恐れがあるからなのだ。

経済成長によって国債を完済できるならば、それはまったく害がないことだが、これはなかなかできるものではない。必然的に「インフレ」「通貨切り下げ」が多用されることになる。

特に通貨の切り下げは頻繁に行われてきた。例えば、アメリカ・ドルと日本の円は、60年前までは1ドル360円で交換されていました。しかし、アメリカはたびたびドルを切り下げ、現在は112円前後で取引されている(平成29年12月現在)。つまり、ドルの対日本円の価値は60年の間に、3分の1に下がっているのだ。

実はアメリカの国債を買っていた日本人や日本政府などは、これで大損をしているのだ。アメリカ国債の価値は、60年前に比べて3分の1になっているというわけだ。簡単に言えば、昔、360円を貸したはずなのに、110円しか戻ってこないというわけだ。

また日本でも、昨今、安倍政権のアベノミクスにより、円安容認の政策(円安誘導に近い)が採られた。これも広い意味では、通貨の切り下げといえるかもしれない。

こういう通貨の切り下げなどでは、もう間に合わない国もある。そうなると破綻してしまうしかない。昨今では、メキシコ、ブラジル、ロシアなどがデフォルトを起こしている。日本やアメリカもこのままいけば、そうならないとも限らないのである。

大村大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官。国税局に10年間、主に法人税担当調査官として勤務。退職後、ビジネス関連を中心としたフリーライターとなる。単行本執筆、雑誌寄稿、ラジオ出演、『マルサ!!』(フジテレビ)や『ナサケの女』(テレビ朝日)の監修等で活躍している。ベストセラーとなった『あらゆる領収書は経費で落とせる』をはじめ、税金・会計関連の著書多数。一方、学生のころよりお金や経済の歴史を研究し、別のペンネームでこれまでに30冊を超える著作を発表している。「大村大次郎」の名前での歴史関連書は『お金の流れでわかる世界の歴史』を皮切りに、以後、『お金の流れで読む日本の歴史』(すべてKADOKAWA)など多数を刊行している。
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