そうしたものが腸からもれ出すと、さまざまな病気がつくり出されます。腸からもれ出したものが全身をめぐり、悪さをするからです。それによって起こる代表的な病気が食物アレルギーであり、がんや脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病などです。うつ病や認知症、自閉症の発症にも関与している可能性も明らかになってきました。
いずれも、現代人に急増している病気です。腸もれ症候群は、日本ではほとんど周知されていない症状ですが、だからといって日本人に少ないわけではありません。むしろ、現在の腸内細菌の貧弱化を見れば、気がつかないまま腸に穴をあけている人は少なくない、と考えられます。
腸の不調が起こす病気は、脳から心臓、心まで多岐にわたると以前から知られていましたが、その背景には、腸内細菌の数が減ったことで生じてくる腸もれがあったのです。
人類の祖先は細菌だった
腸にあいた細かな穴は、腸内細菌の数を増やし、腸内フローラの多様性を豊かにする努力によって、塞ぐことができます。そのためには、腸内細菌が数や種類を減らす原因を知る必要があるでしょう。
私たち人類の祖先は、進化史をさかのぼっていけば、腔腸動物にたどりつきます。腔腸動物とは、ヒドラやクラゲなど、腸のみで生きている動物のことです。動物が初めて持った臓器は腸であり、腸をもとにして脳や肝臓、肺、心臓などあらゆる臓器が、長い時間をかけてつくられていきました。その腸だけで生きていた時代から、腸には細菌がすみ、宿主の生命活動を助けていました。
さらに進化史をさかのぼってみましょう。腔腸動物の祖先としてたどりつくのは、原核生物である古細菌です。約40億年前、地球上に初めて誕生した生命は、深海にすむ古細菌でした。つまり、人間という生物がつくり出されたおおもとには細菌があり、細菌の誕生があったからこそ、今の私たちがいるのです。
おわかりでしょうか。腸内細菌は、生物が人間に進化するはるか以前より、さまざまな動物の腸と共生してきた生命体です。人の生命維持に必要なことや、心身の健康増進に欠かせないことなど、私たち人間よりよほど多くを知っているでしょう。
そして、この原始的な生命体は、原始的な環境こそがもっとも居心地がよく、腸のなかで栄えてくれるのです。
抗菌、殺菌グッズを自宅から排除する
私たちが暮らす文明社会は、原始社会と正反対の環境です。しかも日本人は、抗菌・殺菌グッズを身の回りにあふれさせ、清潔志向を過度にし、今では細菌が身の回りにいることさえ許そうとしない「無菌国家」を築いてしまいました。
腸内細菌のほとんどは、私たちの身の回りにすむ菌の仲間であり、仲間の菌が腸に入ってくることで数を増やし、働きを活性化させることは前述しました。その仲間の菌を殺しておいて、「腸内細菌にはしっかり働いてほしい」と言っても、どだい無理な話です。
腸内細菌が自分の腸のなかで繁栄してほしいと望むのならば、できる範囲でよいですから、今の暮らしのなかに原始的な環境を組み込むことです。そのための方法は、第5章にて述べることにしましょう。
その前に手始めとして必要なことがあります。それこそ、手を洗い過ぎないこと、抗菌、殺菌グッズの類を自宅から排除していくことなのです。