「いつか来た道」の可能性も
すでにみたように、過去の景気拡大局面ではバブルが発生し、その崩壊が景気後退のきっかけとなってきた。一方、足元の景気拡大局面では、過去のバブルの教訓を踏まえた金融当局のマクロ・プルーデンス政策の強化や、民間部門の慎重な姿勢などが功を奏し、これまでのところ「今回は違う」様相を呈しているようにみえる。
もっとも、いずれバブルの発生と崩壊という「いつか来た道」をたどる可能性も全くないとは言い切れない。実際、足元ではバブルの予兆もみられる。緩和的な金融環境が続くなか、株式市場では、投資家のリスクテイクの動きが強まり、企業業績の改善を上回るペースで投資資金の流入が続いている。今後、トランプ政権はインフラ投資の拡大や金融規制の緩和など、さらなる景気刺激策を進めようとしており、投資家のリスクテイク姿勢が一段と強まる展開も考えられる。株価上昇がさらに過熱すれば、バブルの発生と崩壊への警戒を強める必要が出てくる。
米国の著名作家マーク・トウェインは、「歴史は同じようには繰り返さないが、しばしば韻を踏む」という。過去を振り返ると、1990年代後半には、ITで効率化が進み、高い経済成長が恒久的に続くという「ニューエコノミー」論が台頭し、急ピッチな株価上昇を正当化するようなムードが広がったが、結局は2000年代初めにITバブル崩壊へと至った。今回はどのような形で「韻を踏む」のか分かないが、AI(人工知能)革命、ロボット革命などが株式市場の過熱を正当化するカタリスト(触媒)になり始めたら、注意が必要だろう。
日本総合研究所副主任研究員。1983年生まれ。2006年3月一橋大学経済学部卒業、同年4月三井住友銀行入行。2010年10月より日本総合研究所調査部研究員、2016年7月より調査部マクロ経済研究センター副主任研究員、現在に至る。研究・専門分野は国際金融、内外マクロ経済。注力テーマは為替市場、米欧経済。