なぜ各紙の社説は遅れたのか

そもそも1月1日に「新年の辞」が発表されていたにもかかわらず、社説として取り上げたのは朝日と毎日だけ。しかも5日付社説だった。各紙とも「新年の辞」については連休明けの3日付紙面には大きく掲載していた。各紙が遅れたり、取り上げなかったりしたのはなぜか。

大きな理由は、社説を書く論説委員が休んでいたからだろう。各紙の論説委員は休みを取るために、年末年始の社説をあらかじめ用意している。このため年末年始には政治、経済、社会、文化といったテーマ別に大きな1本社説を用意する。それを1週間ほど続けることで、休みをつくるのだ。

休むことは重要だ。しかし今回の金正恩氏の新年の辞は、即座に社説で対応すべきテーマだったと思う。5日付で取り上げた朝日と毎日はまだいい。他紙は準備していた予定稿をそのまま載せることで、論説委員の休みを優先したのではないだろうか。これでは社説を楽しみにしている貴重な読者を裏切ることになってしまう。

「一筋縄ではいかない」と毎日

1月9日の南北対談を受け、毎日と東京は1月10日付の社説でも北朝鮮の話題を取り上げている。

毎日社説は「危機打開に資する戦略を」との見出しを立て「北朝鮮による平和の祭典への正式な参加表明は評価できる。少なくとも大会期間中は軍事的な挑発を行わないだろうと考えられるからだ」と書く。

さらに毎日社説は「今回の動きは、金正恩朝鮮労働党委員長が新年演説で五輪参加に前向きな姿勢を示したことで始まった。背景には、核・ミサイル開発によって深まる国際的孤立の中で突破口を探ろうとする思惑があろう」と北側の狙いを指摘する。

韓国側の考えについては「一方で韓国の文在寅政権には、停滞が続いていた南北関係を打開したいという期待がある」と指摘する。

そのうえで毎日社説は次のように主張する。

「ただ、南北対話は一筋縄ではいかないものだ。文大統領は核・ミサイル問題での危機打開にもつなげたいと意欲を見せるが、成果を焦れば北朝鮮の術中にはまりかねない」
「現在の北朝鮮情勢は南北対話で打開策を見いだせるほど単純なものではない。そうした自覚が必要だ」

複雑になってしまった南北関係は毎日社説が指摘するように「一筋縄ではいかない」「単純なものではない」のである。やはりその辺のところの自覚が現在の文政権に足りないのだ。