景気拡大の主役が投資から消費に
第1は、家計の所得環境の改善で、個人消費の景気牽引力が高まっていくことである。企業業績の回復や人材確保のための賃上げなどを背景に、都市家計の可処分所得は2017年に入り増勢が高まっている(図表2)。逆に、これまでの高成長を主導してきた固定資産投資の増勢は鈍化しており、景気拡大の主役が投資から消費にバトンタッチしつつある。実際、GDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は2011年から緩やかな上昇傾向を続けている。
個人消費をかき立てているのがインターネット販売である。2017年11月11日の「独身の日セール」では、最大手のアリババ1社だけで当日の販売額が1683億元(3兆円弱)にも上り、その規模の大きさや拡大のペースが大きな話題となった。こうしたイベント時の販売だけでなく、ネット販売は高い伸びを続けており、小売売上高全体の堅調な拡大を牽引している。13億人にものぼる膨大な人口も勘案しても、中国の消費市場は、今後も底堅い拡大を続けることが期待される。
第2は、産業競争力の強化や国民の生活水準向上など、必要な分野においては、政策支援を続けることである。
例えば、2017年9月30日、中国人民銀行は、中小零細企業や農業、貧困世帯などへの貸し出しを増やしている金融機関に対して、預金準備率を引き下げると発表した。金融政策では総じて引き締めスタンスを強めているが、消費の底上げや産業競争力の強化に役立つ分野に限っては、緩和スタンスを続けているといえる。
さらに、12月1日より、乳幼児用おむつや洗浄便座など187品目の輸入関税が引き下げられた。今回引き下げ対象となった商品の多くは、消費者のニーズに国産品が十分対応しきれず、海外旅行時のお土産として「爆買い」されているものである。こうした現状を踏まえ、輸入コストを下げて、国内で商品を買いやすくする狙いがうかがえる。
また、民間の固定資産投資は総じて抑制方向にあるものの、インフラについては着実に整備する方針である。道路や鉄道などに加え、情報および物流網の整備・強化が党大会の「政治報告」でも盛り込まれている。新規プロジェクトの承認等を通じて、インフラ投資が大幅に落ち込まないよう措置も講じられている。そのほか、企業向け税・社会保障負担の軽減のように、競争力強化を意図した取り組みも続いている。
第3に、政府の基本姿勢として、成長重視の姿勢を維持していることである。過度な引き締め策を実行し、改革を拙速に進めれば、経済は失速し、中国社会が大混乱に陥りかねない。習近平政権としても、そうしたリスクを冒してまで、引き締めを強化し、改革を進める意向はないであろう。改革の推進はあくまで安定成長が前提である。
とりわけ、「小康社会」(いくらかゆとりのある状態の社会)を2020年までに実現し、結党100周年に当たる2021年を祝賀ムードで迎えることは、共産党指導部にとって 至上命令である。その「小康社会」の主要目標の一つが、2020年の実質GDPを2010年の2倍の規模に増やすというものである。