もう1点が、米国内のユダヤ人の存在感が挙げられます。ユダヤ教徒は全世界に約1400万人いるとされていますが、イスラエルに約600万人で、ほぼ同数が米国内に居住しているとされています(この2カ国で全世界の8割以上)。イスラエルでは全人口の約75%がユダヤ人であるのに対して、米国では全体の2%以下に過ぎません。にもかかわらず、ユダヤ人の米国内での存在感は非常に大きく、政治・経済・社会の全ての面で、米国を主導しているとも言われています。また、トランプ政権内にも娘イヴァンカの夫で大統領上級顧問を務めるクシュナー氏をはじめユダヤ教徒が少なくないため、米国内のユダヤロビーを意識し、今回の宣言に至ったと言えます。

今回のトランプ政権の宣言については、当然ながら冒頭の国連決議に見られるように国際社会も一斉に批判を強めています。パレスチナ側も当然、一斉に反発していますが、イスラエル国内、特にユダヤ人の中でも賛否両論があります。また、イスラエル政府内にも一部戸惑いもあり、今回のトランプ政権の宣言をもろ手挙げて歓迎できない状況です。さらに、米国内のユダヤ人社会においても、賛否両論が渦巻いている状況です。

最悪のシナリオは第3次オイルショック

今回のトランプ政権の宣言については、イスラエルとパレスチナの二国共存を根底から覆すものとして、世界各地で抗議活動が頻発しています。特に、イスラム社会では過激な抗議活動となる可能性があります。それに伴い、イスラエル国内のパレスチナ人による抗議活動が拡大することは必定です。万一、第3次インティファーダのような状況となった場合、下記のような点が懸念されます。

(1)パレスチナ側のイスラム原理主義系の強硬派ハマスは現在、ガザ地区を実効支配し、ファタハ主導(アッバース政権主導)のパレスチナ自治政府の正当性を認めていない立場である。そのため、今回の問題に関し、存在感を高めるため、過激な抗議活動を行う可能性が高い。
(2)それに伴い、強硬派ハマスの存在感が高まり、相対的に現状のファタハ主導のパレスチナ自治政府が弱体化した場合、ハマスを中心とする強硬派がイスラエル国内でテロ等の手段に打って出る可能性がある。
(3)さらに、世界のイスラム原理主義系テロ組織がこれに呼応し、世界各地でテロを頻発させる可能性も高まる。
(4)穏健派のアッバース政権主導のパレスチナ自治政府を支援するサウジアラビア等とこれに対抗する立場で強硬派のハマスを支援しているとされるイラン、シリアとの対立が深まる可能性が高い。
(5)現状、イスラム社会、特にアラブ諸国が反米的な姿勢に転じる可能性が高まっているが、その場合、中東情勢がさらに複雑化、不安定化し、原油価格が高騰する等の影響が出る可能性も高まる。
(6)イスラム諸国間の対立を考えると、実際には起こる確率は低いものの、最も懸念される事態は、パレスチナ人の蜂起の拡大に伴い、アラブ諸国がこれに介入することにより、第5次中東戦争のような状況に発展することであり、そうなれば世界は第3次オイルショックに直面する可能性も否定できない。

このように今回の問題が、日本をはじめとする国際社会に甚大な影響を与えることは間違いない状況であることを肝に銘じることが必要です。

茂木 寿(もてぎ・ひとし)
有限責任監査法人トーマツ ディレクター。有限責任監査法人トーマツにてリスクマネジメント、クライシスマネジメントに関わるコンサルティングに従事。専門分野は、カントリーリスク、海外事業展開支援、海外子会社のガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)体制構築等。これまでコンサルティングで携わった企業数は600社を越える。これまでに執筆した論文・著書等は200編以上。政府機関・公的機関の各種委員会(経済産業省・国土交通省・JETRO等)の委員を数多く務めている。
(写真=Abaca/アフロ)
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