(3)活動の「推進」と「定着」は別物だと考える

生産性向上に関わらず全てのプロジェクト活動について言えることですが、活動の推進と効果の定着は別物です。活動で出た成果は自然と継続するものではなく、定着のための施策が無ければ必ず消えてしまいます。弊社のある大手製造業の顧客企業でも、過去から盛んに改善活動が行われていたものの、担当者の異動のサイクルごとにせっかくの改善成果がゼロになることが繰り返されていました。活動の成果の定着には、活動推進とは別の独立したしくみが必要なのです。

成果定着には活動の属人的要素を最小化することが必要で、下記の5つのポイントがあります。

ただしこの場合も、余りに多くのことを継続対象にすると、業務量の増大や収益の悪化などに直面するとたちまち活動継続が困難になります。

そうならないためにも活動内容の厳選が必要になりますが、一体どのような観点で行えばいいでしょうか。

継続のためのしくみを独立して設ける

ひと言でいうと、本業に直接寄与する内容に絞ること。弊社のある顧客企業は、数年間にわたって活動を継続していたものの、減少した売上回復のために新商品開発部門への人員シフトが必要になり、従来スタイルでの活動継続が困難になりました。国内外の取引企業による頻繁な工場見学があり、改善活動で磨かれた現場が高く評価されていた同社が選んだのが、5Sに絞った活動継続でした。5S継続で工場見学での評価を維持することは、業績の維持・向上にも直結したのです。

トヨタでもさまざまな改善のためのしくみがありますが、QCサークルと創意くふう提案制度の2つは古い歴史をもっています。これらの活動は、リーマンショック後のような業績が厳しい折にも決して途切れることはありませんでした。自動車生産には、働く仲間のチームワークやお客さまのニーズに応えるための改善活動が必須です。職場の仲間とともに身近な問題の解決策を考えるQCサークルや、個人が日常生活の中で「もっと○○できないか」と考える創意くふう提案制度は、自動車生産に大きく寄与するのです。だからこそ、業績や業務量が厳しい折にも、絶え間なく続けてきたのです。

このように、せっかくの活動の成果を継続するためには、継続のためのしくみを独立して設けて、本業に寄与する厳選した活動内容を愚直に続けていくことが必要なのです。

岡内 彩(おかうち・あや)
OJTソリューションズ 経営企画部
東京大学教育学部卒業。トレーナーや顧客企業への取材を通じて、人材育成のコツや強い現場づくりに必要な要素などの形式知化を進める。OJTソリューションズ:2002年4月、トヨタ自動車とリクルートグループによって設立されたコンサルティング会社。トヨタ在籍40年以上のベテラン技術者が「トレーナー」となり、トヨタ時代の豊富な現場経験を活かしたOJT(On the Job Training)により、現場のコア人材を育て、変化に強い現場づくり、儲かる会社づくりを支援する。 本社は愛知県名古屋市。60人以上の元トヨタの「トレーナー」が所属し、製造業界・食品業界・医薬品業界・金融業界・自治体など、さまざまな業種の顧客企業にサービスを提供している。 主な著書に20万部超のベストセラー『トヨタの片づけ』をはじめ、『トヨタ仕事の基本大全』『トヨタの問題解決』(すべてKADOKAWA)など。
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