【玉川】アマゾンを筆頭にさまざまなクラウドサービスが出てきた結果、いまではありえないぐらいの安い値段でデータをたくさん溜めて、強力なコンピュータパワーで分析することが可能になりました。ただ、世の中には溜められていないデータがたくさんあります。たとえば自動車、自販機、家電、建物、橋、道路……。これらが持つデータをクラウドに入れられたら、もっとおもしろい世界になる。いわゆるIoTです。ただ、残念ながらIoTに適した通信がなかった。ならばそこを自分でやってみようと考えたのがきっかけです。
【田原】いい通信がないって、どういうこと?
【玉川】インターネットはケーブルを差せばつながります。でも、走っている自動車にケーブルをつなげるわけにはいきません。では、無線のWi-Fiはどうか。Wi-Fiは部屋の中はつながりますが、外に出るとダメ。そうすると1番いいのはモバイル通信、つまり携帯電話に使われている通信です。ただ、これまでのモバイル通信はヒト向けに使われた通信で、モノ向けではない。それをモノ向けに特化させたのがソラコムのサービスです。
【田原】ヒト向けとモノ向けって何が違うのですか。
【玉川】モバイル通信はSIMという小さなコンピュータをモバイル機器に入れて利用します。これまでのSIMはヒト向けでデータ量が多く、料金体系も高めでした。しかし、IoTをやるときに毎月数千円もかかるSIMを入れると、コストがかかりすぎてビジネスモデルとして成り立たない。IoTを成功させるには、安く使えるモノ向けのSIMが必要です。ソラコムが提供するSIMは1日10円。1カ月間使って300円です。
【田原】料金を値下げしたわけね。
【玉川】値下げではなく、料金体系を変えました。たとえば自販機と通信して、どのジュースがいつ売れたというデータを集めるとします。データ量はごくわずかで、ヒト向けの動画などリッチなコンテンツと比べたらずっと少ない。それに合わせて安い料金体系にしたわけです。
【田原】料金体系を変えたにしても、1日10円は安い。どうしたらそんなに安くできるのですか。
【玉川】携帯電話会社は自分たちで基地局を建て、基地局から集まってきたデータを処理するためのデータセンターを持って専用機材を置いています。ハードに莫大な投資が必要になるので、どうしても通信料に反映せざるをえません。一方、私たちは携帯電話会社から基地局を借りています。またデータセンター部分については自分たちでソフトウェアをつくり、ハード不要のシステムにしました。初期費用が抑えられるので、安い料金体系を実現できるのです。
【田原】具体的にソラコムのサービスを使って、お客さんはどんなことをしているんですか?
【玉川】たとえば北海道の十勝バスでは、110台のバスにスマホを乗せて、ソラコムのSIMカードを入れて位置情報を収集しています。位置情報はお客さんのスマホアプリに発信されて、お客さんはスマホでバスの位置情報を把握できます。雪国は天候悪化でバスが10分単位で遅れることが珍しくないのですが、位置がわかれば寒い中で突っ立って待たなくていい。社長はこのサービスをずっとやりたかったそうですが、通信料月々数千円×110台ではコストがかかりすぎると断念。月300円のソラコムで、ようやく現実的になったとおっしゃっていました。
【田原】ほかには?
【玉川】ダイドードリンコの自動販売機の事例もおもしろいです。缶ジュースの補充はたいへんなお仕事で、現場の人は相当に苦労しているとか。でも、自販機にSIMを入れれば在庫情報が見える化されて、足りないところだけ回ればよくなる。また、ジュースを買うとポイントが貯まるといったマーケティングにも使えます。すでに数万台に導入されており、来春に向けて15万台まで増える予定です。
【田原】いまソラコムと契約しているのは何社くらいですか。
【玉川】8000ユーザー以上です。
【田原】ソラコムの競合はどこですか。
【玉川】いないんです。通信会社はたくさんあっても、IoTに特化して、クラウドにデータを送るサービスをやっている会社は世界中で私たちだけなので。