このままでは国際問題化しかねない

貴乃花親方が巡業部長という要職にありながら、相撲協会への報告が遅れたのは、協会に対する不信感の表れだといわれる。暴行現場にはモンゴル勢だけだったから、彼らが口裏を合わせて、自分たちに都合のいい話をでっち上げられるのを阻止するために、警察へ訴えたというのは理解できる。

だが、事態がここまで大きくなり、一部報道ではモンゴルの人々が、朝青龍や日馬富士という自国の英雄たちを、日本人が排除しようとしているという反発が強く、このままでは国際問題化しかねないともいわれている。

沈黙を続ける貴乃花親方は、自分がつけた火が燃え広がっていくのを面白がっている、と思われても仕方ないところがあるのも事実である。

現理事長の八角親方の責任問題にまで発展させて、辞任に追い込み、来年の理事長選挙で自分が理事長になるという策略なのではないか、といううがった見方まで出ている。

暴力を振るったことは早々に日馬富士が警察の事情聴取で認めている。その暴力が、少し生意気な後輩への叱責を込めた程度なのか、はるかにその限度を超えたものだったのかを、当事者の口から聞き出し、引退勧告までいくのか、その寸前で収めるのかを、相撲ファンならずとも注視している。

日馬富士という力士のインテリぶり

私は贔屓ではないが、日馬富士という力士はなんとなく好きだ。

彼は大学に通い、自ら絵筆を取り、富士山をモチーフにした油絵を描くことで有名だ。相撲取りの中ではかなりのインテリといえるかもしれない。

その日馬富士が『新潮45』(12月号)に手記を寄せているが、そこにこんな言葉がある。

「稽古は嘘をつきません。神様の導きと親からもらった丈夫な体だけでは、相撲に勝つことはできないんです。稽古をした者しか勝てないんですよ。(中略)一日中相撲のことを考えているのが横綱。力士全員にそれを求めるのは難しいでしょうが、『強くなりたい』と思うなら、若手力士にはそれぐらいの気持ちで相撲に取り組んでほしいと思うのです」

貴ノ岩を「教育してやろう」という思いで殴ったという見方もあるが、いくら何でもやり過ぎであろう。だが、品格などというあいまいな言葉で、一人の横綱を角界から追放していい訳はない。

日馬富士や白鵬はもちろんのこと、貴乃花親方と貴ノ岩も、包み隠さず丁寧に当夜のいきさつを説明する義務があるはずだ。

メディアも、これまでのような力士や親方、相撲協会とのもたれ合いを反省し、事実を取材で掘り起こし、相撲ファンの知る権利に応えるべきである。

(写真=時事通信フォト)
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