芋づる式に出てくる「余罪」
まだある。
定期的な開示請求を始めて1年が過ぎるころ、私は改めて確認した『北海道警察職員懲戒等取扱規程』の中に未知の11種の文書名をみつけ、前年の懲戒処分に伴って作成された文書計231枚を一気に入手した。『懲戒処分申立書』や『答申書』、『懲戒審査委員会議事録』など、当事者の警察官が不祥事を起こしてから処分されるまでの過程を記録した書類だ。これに、すでに知っていた不祥事の“余罪”がいくつも記録されていたのだ。いずれも2015年の懲戒から、被害者の存在するケースを抽出すると次のようになる。
『一覧』の説明……部外の異性に対し、不安感を与えるメールを送信するなどした。
余罪……加えて、未成年とみられる女性に裸の写真を撮らせ、メール送信させた。
『一覧』の説明……部内異性方に侵入するなどした。
余罪……のみならず、警察署の当直室内で肉体関係を結んだ。
『一覧』の説明……異性と不適切な交際をするなどした。
余罪……一般女性の少なくとも4人と不倫し、1人に対して強姦の疑いが指摘された。さらに消費者金融から130万円の借金をした。
ここでいう「余罪」は飽くまで比喩で、右に挙げた署内での性行為や金融業者からの借金などは、不祥事ではあるものの犯罪にはあたらない。だが、中には文字通りの余罪が隠されていたケースもあった。7月22日付で「減給」処分を受けた巡査の不祥事は、『一覧』では「撮影機能付き携帯電話機を使用し、卑わいな行為をするなどした」となっている。この件の『懲戒審査要求書』には、その「卑わいな行為」が詳しく記されていた。
文書に出てくる「ディスカウントストア」は、すぐにわかった。「午前5時39分ころ」などという早朝に営業している店舗は、自ずと限られる。
札幌中心部を東西に走る大通公園から3ブロックほど南、公園と並行して東西に延びるアーケード街「狸小路」に、現場となった背の高いビルがある。店舗中央にあるエスカレーターで、巡査は犯行に及んだ。早朝の店内、上りエスカレーターに乗るスカート姿の女性に狙いを定め、背後に近づく。手に持った携帯電話のカメラ機能をオンにして、そのままスカートの中へ。決して来店客の多くない時間帯とはいえ、大胆な犯行といえた。
これだけですでに犯罪であり、『一覧』にも「北海道迷惑行為防止条例違反」と罪名が記されている。だが、巡査の罪はこれだけではなかった。
『懲戒審査要求書』の記述には、続きがある。下着盗撮の18分後のことだ。
盗撮の余罪は、万引きだった。
下着を撮影し、バイブレーターを盗む。ここまで来ると、もはや動機がわからない。5千円あまりという被害相当額を見て、私はかぶりを振りながら「買えよ」と呟いた。巡査が拝命間もない新人だったとしたら、手取り月収は20万円を下回る。5千円の支出は、たしかに痛いだろう。しかし、だからといって盗むという選択肢があるのか。まさか、レジへ持って行くのが恥ずかしかったということでもあるまい。私生活でそういう物を使いたいと思ったことがなく、下着の画像にもさして関心がない私は(「下着だけ」でない写真には大いに関心あり)、ただ首を傾げるしかなかった。
この万引きを、道警は『一覧』に記載しなかったのだ。「盗撮」の2文字で記録すべき犯罪をわざわざ「卑わいな行為」の6文字に変換し、「万引き」あるいは「窃盗」と書くべきところを「など」で済ませたのだ。一般の道民がこの事実を知るには、まず『懲戒処分一覧』を入手し、さらに『懲戒審査要求書』などを追加入手するという、2段階の開示請求を経なくてはならない。つまりこの2件の不祥事は、二重に隠されていたのだ。
これもまた、被害者の「権利・利益」を保護するためなのか?
ライター。1968年生まれ、札幌市在住。旧『北海タイムス』の復刊運動で1999年に創刊され2009年に休刊した日刊『札幌タイムス』記者を経て、現在、月刊『北方ジャーナル』を中心に執筆。同誌連載の「記者クラブ問題検証」記事で2013年、自由報道協会ローカルメディア賞受賞。ツイッターアカウントは @ogasawarajun