それは公表されていなかった

「これは出てないですね。レク(会見)のやり取りで出たのかもしれないけど、ちょっと私、記憶してなくて……」

受話器の向こうで、道警本部広報課の職員がこともなげに話す。

監察官室の謝罪会見を知った土曜の朝から丸2日が過ぎた11月30日、私は午前9時きっかりに道警へ電話をかけた。そこで「虚偽調書作成」事件の『報道メモ』の一部が存在していないことを知らされることになる。

新聞は、30人以上の警察官が「訓戒」を受けたことを報じていた。ところがそれは、警察が発表した事実ではなかったという。話題は『道新』以外も報じていたから、考えられるのはそれが記者会見の質疑応答であきらかになった、ということだ。『メモ』が出ていないということは、訊かれない限り発表はしないということだ。

週末に閲覧したPDFファイルの画像が、脳内に蘇る。「規律違反が極めて軽微なもの」「懲戒処分を要しないと認めるもの」「監督上の措置」。

次いで、10月下旬に目にした新聞の見出しが頭をもたげる。「50代の男性警部補」。

道警は、不祥事をすべて発表しているわけではない――。

名前を伏せ、年齢を秘し、さらには事実そのものを包み隠す。報道であきらかになったケースさえ「軽微な」不祥事と断じ、公式には裏づけを取らせない。

小笠原 淳(おがさわら・じゅん)
ライター。1968年生まれ、札幌市在住。旧『北海タイムス』の復刊運動で1999年に創刊され2009年に休刊した日刊『札幌タイムス』記者を経て、現在、月刊『北方ジャーナル』を中心に執筆。同誌連載の「記者クラブ問題検証」記事で2013年、自由報道協会ローカルメディア賞受賞。ツイッターアカウントは @ogasawarajun
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