謝罪の言葉を使わずに、反省の意思を伝える

法廷では点数稼ぎのための演技をする被告人は多いが、この男性はそのようには聞こえない。低姿勢な態度で自分の考えを真摯に述べるとともに、さりげなく相手(浮気相手や妻)へのメッセージを加えるところが、どこか憎めない。しばしば法廷で被告人が被害者に語る紋切り型の物言いではなかったことがプラス要素だったのだ。

また、そうした“トーク技術”は、直接的な謝罪の言葉を使わずに、反省の意思を伝えていることころにも現れている。

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通常、ほとんどの被告人は最初に「申し訳ありませんでした」と勢いよく頭を下げる。だが、ありふれた常套句は人の心に届きにくく、言い方によっては「謝れば済むと思っている」と受け取られる可能性がある。そうなると「申し訳ありませんでした」の次に何を言うかが大事になるが、うまくつなげないまま言葉に詰まってしまう人が多い。

平謝りした以上、反論や言い訳は見苦しい。相手から質問を受ける前に具体的な説明を始めるわけにもいかない。早く先をうながしてほしいと思いながら、頭を下げた姿勢でじっとしているか、顔を上げて黙っている。そんな体験を持つビジネスマンは少なくないだろう。

▼「不倫と暴力」でもクビにならなかった理由

その点、被告人は謝罪という形式にとらわれず、自分なりの言葉で気持ちをはっきり表そうとするので、言いたいことが伝わりやすい。

これは仕事の場でも参考になると思う。

感謝の言葉も同じこと。反省のあとでお礼を述べて話を終えると、空気が重くなりすぎない効果もあるだろうし、感謝する際は相手を見ながらが基本だから、下げた頭を元に戻すきっかけにもなり、相手も声をかけやすくなる。

事件を起こしたにもかかわらず会社をクビになっていない理由はわからないが、もう一度チャンスを与えようという意見が反映されたものだとするなら、被告人の人間力が評価されてのことだと思う。倫理的にどうかと思われる不倫と、犯罪である暴力行為の組み合わせなのだから、普通なら“一発退場”でもおかしくない。