ZEV規制は「水素」に移る可能性がある

【清水】カリフォルニアの2018年モデルイヤー以降のZEV規制で、例えばEV1台販売した際に得られるクレジットが1だとしたら、FCは2.5ぐらいのクレジットもらえるようになるんです。カリフォルニア州の考え方として、EVはもう普及期に入ってきたから、クレジットを減らすよと言い始めた。次の高みを狙い、FCVにインセンティブを乗せるよということなのです。2018年からFCV、つまり水素のほうにカリフォルニア州は力を入れようとしている。

【安井】イーロン・マスクにとっては、今のうちにFCVを潰しておかないとクレジットがこれまでのように売れなくなるということですね。だから水素を敵にしているという見立てですか。

清水和夫氏(右)と安井孝之氏(左)

【清水】そうだと思います。イーロン・マスクほどの頭脳があればわかるはずです。あらゆるロビーイングで水素を潰すのが、今のイーロンの仕事だと見ています。

【安井】市場関係者やメディアでは、「もうFCVは終わりだ、次はEVだ」という見方がありますが、そうではないという見方ですか。

ドイツも2025年頃にFCV実用化へ

【清水】アメリカの場合はシェールガスが出てきたので、輸入石油に頼らないでもエネルギー自給率は100%の国になりそうなので、どうしても水素が必要だというわけではないですが……。でも大気汚染の原因となる排ガスをゼロにして、長距離をドライブできるのはFCVだけです。さらに日本の場合は水素しかないと考えています。僕はエネルギーの自給率を高めるためにも、日本は水素をあきらめてはいけないと思います。

【安井】なんとなく今、FCVはもう終わったみたいな感じになっていて、しかもイーロン・マスクが、EVが主流になると言うものだから、市場もそう受け止めている。でもこの8月、石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルとホンダ、トヨタが米カリフォルニア州北部で水素ステーションを拡充することを決め、そのプロジェクトに同州のカリフォルニア・エネルギー委員会が約1600万ドル(約18億円)の補助金を出します。カリフォルニア州はFCVの普及にも熱心ですね。

【清水】今年9月のフランクフルトモーターショーでは、ついにドイツメーカーもFCVを2025年頃までに実用化すると言い出しました。もはや水素は脱原発と脱化石を実行するなら、不可欠なエネルギーシステムだと思います。

(次回更新は9月19日の予定です)

清水 和夫(しみず・かずお)
モータージャーナリスト
1954年生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年に自動車ラリーにデビューして以来、プロレースドライバーとして、国内外の耐久レースに出場。同時にモータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで活躍している。日本自動車研究所客員研究員。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
(写真=AFLO)
関連記事
なぜトヨタは"EV参入"を決断できたのか
「新車の4割」EV大国ノルウェーの裏事情
シャオミやテスラはなぜ、世界規模に急伸したか?
マツダが"チーターの美しさ"を目指す狙い
「二人のカルロス」世界の自動車再編で大暴れ