罹患しても安易に仕事を辞めるべからず

このように、生存率が高い=罹患後の人生が長い乳がんだからこそ、一時的な支出増よりも継続的な収入減がライフプランに与える影響が大きいことを考える必要がある。

実際、筆者のところには、乳がん患者さんからの「医療費は何とかなるのですが、今の状況ではフルタイムで働けない。65歳(公的年金を受け取れる)まで、最低限いくらで働けば何とかなりますか?」といったご相談が多く寄せられる。そのためにも、乳がんに罹患した人は、安易に仕事を辞めてはいけない。

そして、乳がんにまだ罹患していない人が今からやっておくべきことは、次の3つだ。

▼乳がんに罹患していない全女性に告ぐ「3カ条」

(1)病気になったときに自分が使えるヒト・カネ・モノなどの資源を把握しておく(とくにリスクに応じた経済的備え<預貯金、民間保険など>は必須)
(2)エビデンス(科学的根拠)のある情報を知ること
(3)予防につとめる(生活習慣に気を付ける、定期的に適切ながん検診にいく、1ヵ月に1回、自己触診を行い自分の胸の状態を知る、かかりつけ医をつくるなど)

とりわけ(3)は、今日からでもできる。とはいえ、健康な女性がこうした備えをすることに違和感を覚えるのも無理はない。だが、先ほどの試算を思い出してほしい。乳がんに罹患にするかしないかで、老後の貯蓄残高は「数千万規模」もの差が出てしまうのだ。

いくらがん医療が進歩したといっても、病気にならないのが一番。がん予防に努めることは、自分のカラダを守ることとともに、費用の節約にもつながる。老後までの人生のプランを崩壊させないことにもつながる。やみくもにがんを恐れるのではなく、自分のカラダと向き合う勇気を持っていただきたい。

<試算の前提条件>

●A子さん 45歳 年収400万円 会社員(正社員) 独身 賃貸 金融資産1000万円
【罹患しなかった場合】
・60歳定年時に退職金1000万円。
・その後64歳まで嘱託社員として働く(年収は現役時代の50%)。
・65歳から老齢基礎年金+老齢厚生年金(年金額160万円)を受け取る。
・65歳から確定年金(年金額20万円)を受け取る。

【罹患した場合】
・罹患した翌年以降5年間は年収2割減。7年目以降、定年までは1割減と仮定。
・がん保険に加入していたため、罹患した年に給付金150万円を受け取る。
・乳がんのステージはIIa。乳房全摘出を行った後、抗がん剤治療(半年)、ホルモン治療を5年間行った。乳房再建手術も済み。
・60歳定年時に退職金800万円。
・その後64歳まで嘱託社員として働く(年収は現役時代の50%)。
・65歳から老齢基礎年金+老齢厚生年金(年金額120万円)を受け取る。
・65歳から確定年金(年金額20万円)を受け取る。
関連記事
乳がん 都市と東日本で死亡率が高い理由
乳がん患者に「追加料金」が発生する理由
がん新時代「見つけ方&治し方」超入門
がん闘病は「高額療養費制度」で十分なのか?
「捨てられたらおしまい」乳がん妻の不安を解消するポイント