例えば会議上、「何かいいアイデアは?」と聞く上司に対して、やる気のあるところを見せようと無理をして意見を述べたら、「では、あなたがやってみて」などとハードルの高い仕事を自ら迎え入れてしまうような“悲劇”は回避したいものだ。
ただ、こうして提案しない人が生き延びるのは、前述の実験の死んだふりのできない甲虫のようにあらゆる問題に対処しようとする他者がいるからこそ、成立する。その前提は忘れてはならないだろう。
「ビジネスにせよ何にせよ、状況は、刻々と変化します。『今、やらなければ意味がない』『すぐやるべき』といわれる業務も、あとになってみれば、結局、『やらなくてもよかった』『時間が解決してくれた』となることもよくあります。だから、何でも今すぐやろうとせずに、問題を“棚上げ”することで面倒くさい仕事などを事実上“片づけ”られるのです」
ちょっとズルい「お先にどうぞ戦略」
いわば「after you(お先にどうぞ)戦略」とでもいうべき、ちょっとズルいけれど、賢い仕事の片付け方だ。
世の中、トップランナーがずっと勝ち続けることは難しい。先行するベンチャーがマーケットを開拓したものの、そこでより洗練されたビジネスモデルを他の大手企業などが多額の資金を注入するなどしてシェアを奪うというパターンは少なくない。2、3番手が最終的に成功するケースも多い。その意味でも、「拙速に動く」のではなく、意図して「うやむや」「やりすごし」「死んだふり」……という悪知恵を働かすのも、大事なのである。
同大学院環境生命科学研究科教授。琉球大学大学院農学研究科修了後、沖縄県職員として10年以上勤務。九州大学大学院理学研究院で理学博士を取得後、ロンドン大学生物学部客員研究員を経て、現職。著書に『「先送り」は生物学的に正しい』『恋するオスが進化する』ほか。