周囲には必ず見てくれている人がいる

もう1人は、優秀な人材にもかかわらず、不本意な降格人事で不遇な立場にあまんじていたMさんです。総合ディスカウントストアZ社からの依頼案件で「自社のホームファニチャー部門を強化するために、商品開発やバイヤーを経験した人材を事業部長として採用したい」というものでした。あらかじめターゲットとなる企業が限定されており、数社の有名企業が対象になっていました。私どもは、対象企業の組織調査を行い、候補者を絞っていきました。

第一候補との交渉がうまく進まず、次の候補としてアプローチすることになったのがMさんです。彼は勤務していた会社で商品開発部の事業部長を任され実績を積んでいたのですが、私がアプローチしたとき、降格人事で一般店舗の店長をしていました。多くのクライアントはこうした人物は敬遠します。ところが、よくよく調べてみると、Mさんの降格には同情すべき理由があったのです。

降格の理由はパワハラでしたが、彼を訴えた社員はクレーマーのような存在で、他の部署でも似たような問題を起こしていたそうです。しかも、そのことを人事部はMさんに伝えていませんでした。商品開発はスピードも要求され、レベルの高さも必要とされます。何も知らないMさんは他の部下と同じように厳しく接し、パワハラで訴えられてしまいました。

私はこの事実をクライアント企業に説明しました。同社はそれを理解し、むしろ、腐らずに店長という職責を果たしている彼を気に入ってくれたのです。たぶん、Mさんの我慢強さを買ったということでしょう。そこからはスムーズに話が進み、MさんはZ社に転職。現在は商品開発のトップとして活躍しています。

ビジネス人生には山あり谷ありです。順風満帆なときもあれば、この2人のように勤めていた会社が倒産するとか、思いもかけず降格の憂き目を見たりすることもあるかもしれません。しかし、そこで落ち込んでいてはだめです。そんな雌伏のときこそ自分を磨いてください。周囲には必ず、見守ってくれている人たちがいて、あなたに手を差し伸べるはずです。

武元康明(たけもと・やすあき)
半蔵門パートナーズ 社長
1968年生まれ、石川県出身。日系・外資系、双方の企業(航空業界)を経て、19年の人材サーチキャリアを持つ、経済界と医師業界における世界有数のトップヘッドハンター。日本型経営と西洋型経営の違いを経験・理解し、企業と人材のマッチングに活かしている。クライアント対応から候補者インタビューまでを自身で幅広く手がけるため、全国各地を飛び回る。2003年10月にサーチファーム・ジャパン設立に参加、08年1月に社長、17年1月~3月まで会長就任。現在、 半蔵門パートナーズ代表取締役。大阪教育大学附属天王寺小学校の研究発表会のほか、東京外国語大学言語文化学部でのビジネスキャリアに関する講演などの講師としても活躍。著書に『会社の壁を超えて評価される条件:日本最強ヘッドハンターが教える一流の働き方 』など。
(取材・構成=岡村繁雄)
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