「クオリティ企業=中小企業」ではない。オポチュニティをつかんで急成長、というわけにはいかないが、立ち位置をはっきり定めて、そこで戦略に磨きをかけることによって、独自の価値を作り、営業利益率10%以上をたたき出す。これがクオリティ企業のイメージだ。例えば日本の自動車産業にはクオリティ企業がそろっている。トヨタはもちろん、ダントツに利益率が高いスバルもまた日本を代表するクオリティ企業だ。
「ほぼ日」が手帳で儲けられる理由
私が所属する一橋大学では、「ポーター賞」という、優れた戦略で高い成果を出している企業を表彰する活動をしている。すでに十数年続けているが、ポーター賞の受賞企業はそのままいまの日本で元気なクオリティ企業のリストになる。
その一つが2012年度に受賞した東京糸井重里事務所(現:株式会社ほぼ日)だ。メディアを運営しているが、その稼ぐ力は物販の商売にある。扱っているのは手帳や土鍋、腹巻き。商品のカテゴリーで言えば、ほとんどオポチュニティがなさそうなものばかり。なぜそれで儲かるのか。独自の価値を作る戦略があるからだ。
「ほぼ日」というメディアは、即時性の高いニュースは追わず、生活の中での人間の動機に注目して記事を発信する。そこには人々が滞留するコミュニティーができる。動機のやりとりを継続することで人々が必要とする商品がわかる。それを自社開発し、提案するのがほぼ日のやっていることの正体だ。明確な動機を持つ顧客は、共感を伴って商品を買い、その使用経験をコミュニティーで共有するようになる。結果的に少数のロングラン商品が生まれる。優れた戦略が生み出す独自価値が利益となって結実するというクオリティ企業のひとつの好例である。
クオリティ企業が注目するのは「日陰」
私が儲かるロジックとして面白いと考えているのは、「逆オポチュニティ」だ。その時点での旬のオポチュニティが日差しだとすると、オポチュニティ企業は日向(ひなた)をいち早く捉えて集まってくる。しかし、日向だけにプレイヤーが大勢押し寄せて競争が厳しくなり差別化も困難になる。むしろ、商機と勝機は「日陰」にある。