生き残れるのは「変化に対応した企業」
これまで110年近い歴史の中で、ブラザーは大きく分けて4度の変身をしながら、会社を発展させてきた。(1)ミシン専業だったのが、(2)編み機やタイプライターなどに多角化し、(3)ファクスやプリンターなどで電子化や情報化を推進していき、(4)デジタル複合機や通信カラオケなどで情報をネットワーク化――という流れだ。過去はBtoC事業が主軸だったが、5度目の変身は、産業用機器などのBtoBで成し遂げることを目指す。
小池氏は社内に向けては、進化論を唱えたダーウィンの「種の起源」の一説の言い回しを変えて、次のような言葉で説明してきた。
「世の中で生き残る者は、身体の大きい者でも、強い者でもなく、変化に対応できた者のみです。私はブラザーグループを変化対応力に優れ、価値を生み出すチームにしたいと考えています」
こうして紹介すると、ブラザー工業という会社は、常に変化を求められ、ピリピリした雰囲気だと思う読者がいるかもしれない。だが、昔から家族主義で役員と社員の距離も近い社風で「モノ言えば唇寒し」の風土でもない。離職率も年に1%を切る低さだ。小池氏自身「若い頃から大口を叩き、言いたいことを言う」タイプだった。新卒で入社後に、当時の人事部長からは「ぼくが面接していたら、キミなんか採用しなかったのに」と言われたという。
そうした社内の居心地のよさは、一歩間違えれば"ゆでガエル"状態になりかねない。経営トップの思いを社員一人ひとりに伝えるために、小池氏は「そこまでやるか」というほど、社内コミュニケーションに力を注ぐ。次回はその手法を具体的に紹介しよう。
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。