「民主主義の基本」とはなにか

もう一度16日付の朝日社説を見てみる。「捜査や刑事裁判にかかわる法案はしばしば深刻な対立を引き起こす。『治安の維持、安全の確保』という要請と、『市民の自由や権利、プライバシーの擁護』という要請とが、真っ向から衝突するからだ」と前置きしてから「2つの価値をどう両立させ、バランスをどこに求めるか」と読み手に考えさせる。

そのうえで「その際大切なのは、見解の異なる人の話も聞き、事実に即して意見を交わし、合意形成をめざす姿勢だ」と指摘する。この朝日の指摘は民主主義の基本であり、そのために国会での議論がある。

それを思うと、共謀罪法の強行採決は異常であった。朝日社説が述べているように「実行されなくとも計画段階から処罰できるようにするという、刑事法の転換につながる法案であるにもかかわらず」、問題が多すぎた。

毎日新聞(18日付)も「議論封じて国会閉鎖 これは議会政治の危機だ」との見出しを掲げ、まず「会期を延長しなかったのは、加計学園問題で、これ以上追及されたくないと首相や与党が考えたからにほかならない」と書く。さらに共謀罪法の審議については、参院法務委員会の採決を省略してまで成立を急いだ。奇策で自ら議論を封じるのは言論の自殺行為だと言っていい」と言い切る。

朝日社説と同様、毎日社説もまさに正論である。

読売の論説委員のなかにもまっとうな記者がいる?

再び読売社説。16日付紙面で読売は「テロ準備罪成立 凶行を未然に防ぐ努力続けよ」という見出しの1本社説を掲載している。共謀罪法の成立を受けて「安倍首相は『国民の生命、財産を守るため、適切、効果的に運用していきたい』と語った」と書き、こうつなげる。

「犯罪の芽を事前に摘み取り、実行を食い止めることが、テロ対策の要諦である。『既遂』を処罰する日本の刑事法の原則に縛られたままでは、有効な手立てを講じられなければならない。テロ等準備罪が必要とされる所以である」

「摘発の対象となるのは、組織的犯罪集団だ。テロ集団のほか、暴力団、麻薬密売組織、人身売買組織、振り込め詐欺集団などが想定される」

「組織的犯罪集団の構成員や周辺社が、2人以上で重大犯罪を企てる。うち1人でも実行準備行為に走れば、その段階で全員を取り締まることができる。テロ集団の活動を根元から封じるための武器として、改正法を活用したい」

この読売社説もここまではいいだろう。しかし後半で「『一般人も処罰される』という野党の主張は、不安を煽るだけだったといわざるを得ない」「野党は『監視社会になる』とも批判した」「批判は的外れだ」などと主張する。果たして読売社説の通りなのだろうか。それならなぜ、朝日や毎日の社説は正反対の主張をするのか。私(沙鴎一歩)は、もっと時間をかけて国会などで議論する必要があったと思う。