セクハラだ、と問題になった大学受験用漢字問題
さて、例文が話題になった漢字ドリルといえば、大学受験用の漢字練習テキスト『生きるセンター 漢字・小説語句』(駿台文庫)が記憶に新しい。例文内容が極めてセクハラ的、女性差別的として問題視され、昨年、販売停止・在庫回収の事態となった。
その問題の例文を一部紹介しよう(カタカナ部の書き取り)。
「彼女のなだらかなキュウリョウをうっとりと眺めた」
「胸のデカさに俺はキョソを失った」
「一定スイジュン以上の女の子しかここには入れないんだよ」
「夫婦間の家事ブンタンなんて幻想だ」
いかがだろうか。これは確かに問題視されても当然の内容だろう。セクハラ的な要素のみならず、男性優位的なマッチョイズムも顔をのぞかせているように思える。しかし、この漢字練習テキストはセクハラ云々以前の問題を抱えていると私は考える。
それは先述した『うんこ漢字ドリル』の落とし穴と同じなのだ。
なぜ、こんなに例文が短いのだろうか?
『うんこ漢字ドリル』『生きるセンター 漢字・小説語句』だけではない。書店にある漢字ドリルの多くが、同じ欠陥を抱えている。それは、登場する漢字(あるいは熟語)の意味を文脈の中で汲み取れない、ということだ。例文を限られたスペースに収める必要があるのかもしれないが、とにかく一文が短すぎる。
『生きるセンター 漢字・小説語句』の例文で説明しよう(カタカナ部の書き取り)。
「彼女のなだらかなキュウリョウをうっとりと眺めた」
解答は「丘陵」である。しかし、この熟語の意味はこの一文を読んだだけではまったく分からない。しかも、この場合の「丘陵」は、女性のボディラインの比喩的に示したものであるからなおさらだ。
では、この書き取り問題を次のような例文に変更してみたらどうだろうか。
「関東平野には台地と山地の中間的性格を持つキュウリョウが多く存在していて、とりわけ多摩地域ではそのなだらかな起伏をいかした住宅地が造成されている」
下ネタ要素を除外したうえで、このような例文に変更すれば、「丘陵」の意味が前後の文脈からイメージ・類推しやすくなるのだ。