在任中のオバマ大統領は、サイバー攻撃で不当に選挙戦に干渉してきたロシアに対抗措置を取っている。昨年12月にワシントンのロシア大使館とサンフランシスコのロシア総領事館の外交官35人を国外追放したのだ。当然ロシアは報復措置に出ると思われたが、プーチン大統領は動かなかった。これはトランプ陣営がセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使にコンタクトして「我々が政権を取れば円満に解決するから過剰反応するな」と言い含めたからとされる。政権発足から1カ月も経たないうちに、大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のマイケル・フリン氏が辞任に追い込まれたのも、補佐官就任前にロシア大使と対ロ制裁の緩和について協議したとの疑惑がかけられたからだ(アメリカでは民間人が外交政策に関与することが禁じられている)。トランプ大統領がコミー前FBI長官にフリン氏の捜査を中止するように要請したことも明らかになっている。
国家に対するサイバー攻撃3つの標的
ロシアは旧ソ連の時代からスパイや宣伝工作員を使って他国の政治を動かそうとしてきたわけで、情報操作の技術を高度に発達させている。知らないうちに潜り込んで情報を抜き出すスパイウエアや他者のデータベースやプログラムを意図的に操作したり、破壊するマルウエアが世界中で猛威を振るっているが、そうしたソフトを駆使すれば戦争になる前から相手を戦闘不能状態に追い込んだり、相手国の選挙に干渉して自分たちに都合のよいリーダーが選ばれるように世論を操作することもできるのだ。武力による戦争は過去のもの。現代は情報戦争の時代で、国家に対するサイバー攻撃の主要な標的は3つある。1つは軍事システム。軍事関係のコンピュータに入り込んで、ミサイルが発射できないように無力化したり、誤爆させる。
2つ目が社会インフラ。たとえば発電所のネットワークに入り込んで大規模停電を起こしたり、電車や道路の信号を操作して交通ネットワークを麻痺させる。この手の情報戦は北朝鮮が熱心に研究していて、韓国の原発の原子炉のオペレーティングシステムに侵入して不正操作で核暴走を引き起こす技術はすでに完成しているという。大規模停電や交通麻痺などの社会的な混乱に乗じてミサイルを撃ち込んだり、軍を電撃的に動かすのが北朝鮮の狙いだろう。