保護主義のもとでiPhoneの生産は
では、世界経済にはどんな影響が起こるだろうか。
トランプは保護主義をアメリカ経済の中心に置いている。それは世界経済を2、3%貧しくするだろう。貿易が世界的に分解すれば、多くの短期的な痛みを伴うだろう。アメリカでさえ、多くの工場が閉鎖され、生産ラインがなくなることを人はわかっていない。今我々が行っていることの多くは、中国やあちこちから一定のものを買うことができるという前提に基づいている。しかし、このシステムを崩壊させるという実験はまだ試していないので、実際にどうなるかは誰にもわからない。
しかし、度を越してはいけない。大恐慌が起こる可能性もある。もちろん日本も甚大な影響を受ける。
現代は効率を増すための興味深い特化技術がたくさんあり、それがあるから世界全体が以前より少し裕福になっている。それを逆戻りさせると、世界は以前より貧しくなる。トランプが保護主義を強めると、既存の工場や産業クラスターが機能しなくなり、成長しなくなる。トランプがこのままどんどん実行していくと、世界の終わりがやってきてもおかしくない。いずれにしても多くのものが破壊されるだろう。
私が使っているiPhoneは1世代前の型だが、これは20カ国くらいで生産されている部品からできているはずだ。日本で作られている部品もあれば、中国で作られている部品もある。中で使われているレアアースは中国から来ている。
世界貿易を破壊したら、iPhoneをどうやって生産するか、誰かが考えないといけないが、価格は高くなるだろう。新しい職業はできるだろうが、従来の職業で消えるものも出てくるだろう。
トランプは公約通り、TPP(環太平洋経済連携協定)離脱を発表した。何の準備もなく、地固めもしないで、離脱したことは悪いシグナルだ。委員会を作って、協定を一部改訂する方法はないかなどの手順をふむべきだった。
日本はTPPについてあきらめていないようだが、チャンスはゼロだ。トランプに関してわかっていることは、「見てくれ」がすべてであるということだ。つまりTPPを離脱すると言えばやるということだ。それを止める方法はない。
トランプは選挙時にNAFTA(北米自由貿易協定)は最悪の協定だと言っていたので、これも何とかして再交渉しようとするだろう。とてつもなくショックが大きいが、興味深いことだ。というのも現時点で多くのアメリカの製造業はメキシコとかなり密に統合されているからだ。一つの製品が完成するまでには非常に複雑なネットワークがからんでいる。自動車の部品を例にとっても、エンジンブロックがメキシコで製造され、シャーシがアメリカで作られ、ワイヤリングがメキシコで行われているかもしれない。
そのシステムを崩壊させると、多くのアメリカの製造工場が閉鎖することになり、全アメリカのセクターを大きく破壊させることになる。製造業は全体のほんの一部だ。
人は中国経済の急成長から生じる「チャイナショック」を不安視するが、NAFTAが崩壊すれば「トランプショック」が起きるだろう。NAFTAはもはやアメリカの製造業の構造の中に組み込まれているからだ。