「アイス」でなく「ソフト」にした理由
シロノワールの上にはアイスクリームではなく、ソフトクリームを載せたのも加藤さんのアイデアでした。
「アイスクリームディッシャーで載せるアイスよりも新鮮なソフトクリームの方がおいしいですから。今にして思うと、既存のやり方が面白くなかったのでしょうね」(加藤氏)
実は、シロノワールのデニッシュパンは64層だそうです。一般的なデニッシュパンは24層や36層だとか。そこまで多層のきめ細かさにしたのも理由があります。
「温かいデニッシュパンの上にソフトクリームを載せると、徐々に溶けて浸してきますが、その時のおいしさにもこだわりました」(加藤氏)
パンを製造するコメダ千葉工場長の野口浩二さんによると、「味については、ソフトクリームがあっさりめなので、デニッシュパンはコクみを出しています」とのことです。
近年、コメダ珈琲店ではシロノワールの派生商品を積極的に投入しています。2016年秋には「キャラメルリンゴ」として、リンゴを用いてキャラメルソースをかけたシロノワールを期間限定(11月下旬までを予定)で販売しています。
同年のバレンタイン時期には、「チョコ色に染まれ! コメダのチョコ祭り」と題したイベントを開催。各店舗でクリームソーダやアイスココアなどソフトクリームを使ったメニューを、バニラソフトからチョコソフトに変えました。シロノワールもチョコソフトの「クロノワール」となり、好評だったそうです。
こうした手法は、「ロングセラーブランドの活性化」と呼ばれます。時代とともに消費者の好む味は変わりますから、進化を続けないと取り残されてしまいます。
とくに、シロノワールが位置する「デザート(スイーツ)市場」は大激戦区。ライバルは他のカフェだけではありません。コンビニスイーツやネットのお取り寄せで「うちカフェ」をする人も多いからです。年数の長さだけでは勝負できない時代、伝統の上にあぐらをかいた企業や商品は淘汰されてしまいます。
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。著書に『カフェと日本人』(講談社)、『「解」は己の中にあり』(同)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)などがある。