認知症ドライバーの事故で「家族は崩壊」
意外に思われるかもしれませんが、運転免許の自主返納は最近になって急増しています。警察庁の統計によれば、自主返納者数は2007年まで年間2万人程度で推移してきましたが、2008年には3万人近くに増え、その後は右肩上がり。2015年には年間28万人を超えるまでになっています。
7年間で10倍近くも増えたことになります。
なお、2015年に自主返納した人の約95%が65歳以上です。これだけ増えたのは、高齢ドライバーによる事故が増え報道される頻度が高まったこともあるでしょう。また、自主返納者には見た目が運転免許証そっくりで公的な身分証明書にもなる「運転経歴証明書」が発行されることが知れ渡ったことや、自治体によって異なりますが公共交通機関の優待、タクシー料金の割引といった恩恵があることも有効だったのかもしれません。しかし、この傾向を手放しで喜べない事情があります。
「自主返納者の多くは、今の自分と向き合い、衰えを感じる部分があれば謙虚に受け入れることができる人、そしてクルマの便利さや楽しさだけでなく、その一方にある事故のリスクも考え、どちらをとるべきか冷静に判断できる人だと思うんです」(Mさん)
つまり……、周囲が今すぐにも免許を返納してもらいたいと思っている肝心の認知症ドライバーは、ほとんど含まれていないのではないか、とMさんは言うのです。
「私が見てきた認知症の疑いがあるドライバーは例外なく自分を客観視できず“オレは大丈夫だ”と思い込んでいました。また、プライドが高く、弱みを見せられない、人の指図は受けないという意識が強い。だから、何の逡巡もなくクルマの運転を続けるわけです」(Mさん)
そうした高齢ドライバーがいる家族が抱える、不安。これはかなり切実なものです。
何せ、クルマで出かけると帰ってくるまで、どこかで事故を起こしているのではないかと心配のし通しです。言うまでもなく自動車事故は命を落とす危険がありますし、人身事故でも起こせば犯罪者になってしまう。
そんなことになれば、一家は崩壊です。