とはいえ、喫煙そのものは私的な性格を帯びる行為といえる。労働基準法34条3項は「使用者は(中略)休憩時間を自由に利用させなければならない」と定めている。休憩中に従業員がタバコを吸うことは許されるけれども、勤務時間中には許されないのは当然のことである。

「たとえば、ビルの10階にオフィスがあるとして、休憩時間でもないのに内勤の従業員が、1階まで下りていって喫煙しているとすれば、勤務時間中にサボっているわけで、職務専念義務に違反する行為だといわれても仕方がない」(同)

会社に勤める以上、勤務時間は会社から課された職務に専念しなければならない。違反した場合は、社内で懲戒処分や人事的なマイナス評価を受けたりしたとしても文句はいえない。

ただ、職務専念義務に違反する従業員の行為とは何か、という問題は難しく、一概に定義づけられるものでもない。現在の最高裁判所が、会社の業務や従業員の職務の性質・内容、その行動の態様など、さまざまな事情を酌みながら総合的に判断すべきである、との立場を採用しているためだ。

北村社労士は、タバコに関する社内ルールを整備せず、勤務時間中でも喫煙室へ行ってタバコを吸うことが黙認されていれば、職務専念義務に反しない可能性が生じると指摘する。

「たとえば、午前中は3本までタバコを吸うことを許可するとか、5分間の喫煙休憩を入れるなど、休憩時間を明確にしたほうがいい。しかし、そこまでの労務管理を行っている企業はなかなかない。大半の会社は、数分間のトイレ休憩やお茶休憩をカウントして、いちいち給料を引くことまではしていない。それと同じような扱いで、なし崩し的に喫煙を見過ごしているのが現状ではないか」(同)

その会社における社長や重役自身が喫煙者か否か、あるいは喫煙習慣がないほかの従業員のタバコに対する許容度などによっても、社内でのタバコの扱いは変わりうるだろう。

(ライヴ・アート= 図版作成)