騒動を大きくしたのは「念のため対策」を絶対的に必要な対策と混同したこと

なぜ今、日本中が大混乱に陥っているのか。

この専門家会議の提言書を含め東京都の資料には、上記(1)から(5)が全て「対策」として、いっしょくたに説明されている。ところが、専門家会議が提言した対策には、絶対的に必要な対策と、念のための対策があるという視点が完全に抜けている。(1)から(3)までの汚染物質を除去することと(5)の地下水位管理は専門家会議の提言としては絶対的に必要な対策だ。ところが(4)盛土とコンクリートは念のための対策なのである。これは僕が決めたわけではなく、専門家会議の提言書を以上のように論理的にしっかりと読めば簡単に分かることだ。

そりゃそうだ。汚染物質が除去されたのであれば、そもそも上から蓋をする必要はない。このことを受けて、9-12ページに建物建設時の注意事項がある。この表現は少し稚拙だった。

ここでは「上記9.6.2の方針で土壌汚染等の対策が行われ、その後に建物建設が行われる場合、建物建設地には操業由来の土壌汚染および地下水汚染は残存していないため、それらに対する注意は特に必要ない」とある。土壌の汚染物質や地下水の汚染物質は除去されるので、特に何も気にせず、普通に建物を建設すればいい、すなわち地下空間を作っても何も問題はない。

ところが、「上記9.6.2」に記載される土壌汚染対策に(4)の盛土も含まれている記述になっている。ここが東京都の大きな失敗の一つだ。

専門家会議の提言書を論理的に読めば、(4)の盛土及びコンクリートは、土壌や地下水から汚染物質を除去する対策ではないことはすぐに分かる。盛土及びコンクリートは汚染物質に対して蓋をする対策だ。すなわち、この部分は「上記9.6.2の対策(盛土及びコンクリートによる覆土を除く)」と明確に記載しておかなければならなかった。

盛土やコンクリートは、汚染物質を除去する対策ではない。盛土やコンクリートがなくても、汚染物質が除去されれば、何も気にすることなく、普通に建物を建設すればいいし、地下空間を作っても問題ない。土壌や地下水から汚染物質が除去されたのであれば、地下空間は汚染物質の除去に影響する話ではなく、単なる建物建設の話に過ぎない。

豊洲では土壌及び地下水から汚染物質が完全に除去された。まずここを前提に考えなければならない。

しかし、ここが除去されていなければ大問題だ。だからこそ、僕は、まずは客観的データの計測が必要だと言い続けている。市場建物内や土壌、そして地下水から汚染物質が出てくれば、たとえ盛土があったとしても、当初目標としていた対策は失敗していたことになる。しかし汚染物質が出てこなければ、盛土などそもそも必要ない。

つまり盛土のあるなしは、今回の豊洲問題ではどうでもいいことなのだ。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.23(9月20日配信)からの抜粋です。

(撮影=市来朋久)
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