世界の食品産業ではM&Aや事業分離は日常的
モンデリーズ社とのライセンス契約の終了は、長い年月をかけて「ナビスコ」ブランドを築き上げた商品開発力と営業力を自負する山崎製パンにとっては不本意な結果となった。だが、世界の食品産業の戦略からすると、「日本のようなライセンス契約は異例」という指摘もあるのも事実。M&Aや事業分離の戦略が日常的となっているからだ。
このことは、ナビスコ社が米クラフト・フーズに統合され、さらに分社化して菓子の世界大手、モンデリーズ社となったことからもわかる。また、モンデリーズ社も「リッツ」「オレオ」などの主力菓子は取り込もうとするが、15年9月には日本でも馴染み深いソフトキャンディー「メントス」の販売権を手放している。
山崎製パンにとっての「ナビスコ」ショックも青天の霹靂ではなかった。ライセンス契約の期間が改定のたびに5年から2年、1年と短縮され、ライセンス料も上がっていったからだ。そして、「販売はうちでやるので、製造だけをお願いしたい」とのモンデリーズ社からの要求。これでは下請けになれといわれているようなもので、製パン業界国内最大手のプライドが許さなかった。
それでも山崎製パンは妥協点を見つけようとしたが、モンデリーズ社は契約終了を「世界戦略の一環」と考えており、交渉の余地はなし。山崎製パンの不満も爆発。飯島社長は「自主独立精神でやっていく」という決意を固めるしかなかった。
ヤマザキビスケットは、契約終了によりライセンス料の支払いがなくなるとはいうものの、売上高の約4割を占めていた「リッツ」「オレオ」など主力4商品の類似競合商品の販売ができるのは17年の12月から。それまでのあいだ、モンデリーズ社の「リッツ」「オレオ」などの市場動向をうかがいながら、時がくるまでひたすら競合品の開発を練ることになる。
長年培ってきた製造技術と営業力に磨きをかければ、ヤマザキビスケットとなってもこれまで以上の収益を確保できるかもしれないが、消費者に浸透しているブランド名を捨て、再スタートするのは容易なことではない。