15年度の売り上げは過去最高になった

シフトしていく旅行商品とその購買方法。これらにうまくアプローチできていれば、JTBをはじめとする総合旅行企業は、1990年代以降の販売の低迷に陥ることはなかったはずである。ではなぜ、多様化する旅行商品を、総合旅行企業はうまく取り扱えなかったのか。そこには、組織の問題があった。

多様化する旅行商品への対応には、本社が主導する集権型の組織は不向きである。集権型の組織は、セット旅行の全盛期の総合旅行企業ように、全国一律の統制のとれた動きで、規模を追うには適している。しかし、地域や分野によって異なる対応を機敏に行っていくには不向きである。意思決定のたびに本社の判断を仰いでいては、顧客に密着した、柔軟で迅速なサービスは実現しない。

このことに気づいたJTBは、2006年より新しいグループ経営体制への移行に踏みきった。本社を15の事業会社に分社化し、従来からのグループ会社についても経営の独立性を高めたのである。改革が進んだ現在では、旅行商品の販売の中核をになう地域総合型会社群(JTB首都圏、JTB関東、JTB西日本など10社)のなかには、地域の事情に応じて法人営業に重点を置く事業会社もあれば、店舗販売に重点を置く事業会社もある。社員の評価の方法や賃金の体系も、事業会社ごとの判断で異なる。

とはいえ、これはJTBの社員に、働き方の大きな変化を強いる改革だった。そこでJTBは、大きな混乱を引き起こさないよう社員ひとり一人の希望を把握し、3年ほどの移行期間を設けて、グループ内での転職と転籍を進めていった。

結果はどうだったか。JTBの改革の成果が実をむすぶには、10年の期間が必要だった。ここまで時間がかかったのは、JTBが社員ひとり一人をいきなり荒海に放り出すようなことはせずに、移行期間をもうけて、腰をすえて改革に取り組んだからである。だが、それ以上に大きかったのは、改革後の2008年に起きたリーマンショックと、11年の東日本大震災の影響である。しかし、それら危機の影響が薄らいでいくとともに、JTBの業績はV字回復へと向かう。15年度には、JTBグループは過去最高の売上げを達成する(図参照)。

JTB連結売上高/国内主要旅行業者の取扱額(合計)の推移

ひとりの天才の発想やひらめきではなく、組織能力でマーケティングに挑むのであれば、時代に合った組織デザインの採用が欠かせない。デジタル化やグローバル化が進む市場では、企業の成長機会、さらには競争優位の源泉もシフトしていく。そこでは企画や販売の進め方を、組織デザインにさかのぼって見直す必要が生じることを、JTBの復活は示している。

(宇佐見利明=撮影)
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