「なぜ、楽天が出店店舗との結びつきを大切にするのか。それは創業の原点と深く関わっています。インターネットを使えば、地盤沈下が進む地域の中小企業をエンパワーメントし、元気づけることができるのではないか。地方の中小商店が頑張るほど買うほうも楽しくなる。それが出発点であり、その考え方をエキサイティングだと感じ、共鳴した出店者たちが集まり、それを見たユーザーたちが集まってできたのが楽天です。アマゾンともヤフーショッピングとも、創業の思想が異なるのです。

そのどれがいいかの問題ではなく、それぞれ提供する付加価値が違う。不況下でも好調な企業に唯一共通するのは、単にモノを右から左へ流すのではなく、サービスの面で明確に付加価値を生み出していることです。楽天の場合、出店店舗と本部とが強く結びつき、店舗とユーザーが活発にコミュニケーションを交わし、ユーザー同士が体験を共有していく中で買い物をする楽しさという大きな付加価値が次々生まれているのです」

インターネットはよく、「創発のメディア」と呼ばれる。創発とは、さまざまな要素が多数集まり、その総和にとどまらない新しいものが生まれることをいう。楽天では売り手と買い手、さらには買い手同士が相互に作用し合う中で「買い物をする楽しさ」という付加価値が生まれる。その仕組みを創業以来10年かけてつくり上げ、未曾有の経済危機に直面した今、大きな競争力になって表れた。

変化の激しい時代にはニーズを分析してから手を打ったのでは後手に回る。インターネット企業に限らず、売り手と買い手との間でいかに創発の関係をつくり上げられるかが問われるといわれる。

「一番重要なのは、生み出した付加価値が陳腐化する前に次の手を打てることで、そこで差がつく、楽天には『成功のコンセプト』と題した行動指針があり、その中の『スピード!!スピード!!スピード!!』という項目で、他社が1年かかることを1カ月でやり遂げるスピードを求めています。今年はスピード3連発では足りず、4連発でいく。『あす楽』の次は当日配送の『きょう楽』をやる。付加価値を生むスピードを一度でも失ったところが脱落していくでしょう」

(勝見 明=インタビュー・構成 若杉憲司=撮影)