甘いものを食べすぎると、逆に低血糖になってキレる

人がキレる原因には、血糖値も関係しており、これが3つ目の原因になる。

「長い間のよくない食習慣のせいで、血糖値が乱高下しやすくなっている人がいます。そういう人はキレやすい」と語るのは黒川氏。

脳のエネルギーはブドウ糖であり、消化器官から脳に糖を届けるためには、空腹時でも血糖値が80くらいないと脳が正常に働かない。

「血糖値が80を下回ると、脳は不安になってくるんです。だって血糖値が40になったら意識混濁、それが数時間続けば脳死ですから。それではまずいので体は血糖値を上げるホルモンを連打してくる。その中には人を興奮させるホルモンであるアドレナリンも含まれています。だから興奮して攻撃的になりやすい。通常、血糖値は空腹時でも80程度をキープするように制御されています。それを下回ってしまう低血糖症の人は意識が不安から攻撃へと転移するので、それでキレやすくなるんです」(黒川氏)

お腹が空くと不機嫌になる人がいるのは、そういうわけだったのだ。それではなぜ、低血糖になるのか。

「なんと甘いものを食べたせい。空腹時に甘いものや炭水化物などの糖質をいきなり口に入れると、血糖値が急上昇する。びっくりした体が血糖値を下げるホルモン・インシュリンを過剰分泌して、結果、低血糖が起こってしまうのです。それが習慣になっている人は要注意。血糖値の乱高下癖は、子供なら成績不振や不登校、大人ならメタボやメンタルダウンを引き起こします」(黒川氏)

たとえば朝御飯を食べずに出社する。すると元気が出ないので、甘いコーヒー飲料を飲んだり、菓子パンを食べたりする。すると、血糖値が一気に上がって元気になる。しかし、インシュリンの過剰分泌で血糖値の急降下が起こり、ほどなくだるくなって集中力がなくなり、やがてイライラし始める。

糖質摂取からイライラ発生までの時間は、だいたい1時間半。お昼前になると職場でイライラしている人がいたら、朝御飯を抜いて出社前に何か甘いもので脳に喝を入れている可能性があるというわけだ。

これまで述べてきたことから、脳科学の観点から、キレやすい人が増えている背景には、「前頭前野の未発達」「セロトニンの不足」「血糖値の乱高下」という3つの原因が考えられるようだ。

有田秀穂
東邦大学名誉教授。セロトニンDojo代表。
1948年生まれ。東京大学医学部卒業。東邦大学医学部統合生理学で坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究、2013年より現職。著書に『脳からストレスを消す技術』ほか。
 
黒川伊保子
脳科学コメンテーター。感性リサーチ代表取締役。
1959年生まれ。83年奈良女子大学理学部物理学科卒。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリで人工知能の研究開発に従事。2003年より現職。著書に『英雄の書』ほか。
 
保坂隆
聖路加国際病院精神腫瘍科部長。
1977年慶應義塾大学医学部卒業。2003年東海大学医学部精神科学教授。10年同大を退職し、聖路加国際病院精神腫瘍科医長、13年より現職。著書に『平常心―人間関係で疲れないコツ』ほか。
(大沢尚芳=撮影)
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