有機ELにおいても有用なIGZO

4月2日、郭台銘・鴻海会長とシャープの高橋興三社長が会見した場は、両社の連携の象徴ともいえる堺工場だった。郭会長は、有機ELに投資すると言明する一方、シャープが強みを持つIGZO(酸化物半導体)技術の優位性に再三言及した。

有機ELはスマホなどに搭載する次世代のディスプレイ。アップルもiPhoneに採用するといわれており、鴻海はそのアップルの主要EMS(製造受託サービス)企業だ。

郭会長の発言を受け、鴻海はIGZOの液晶パネルを強化していくだろうという観測が強まっている。IGZO液晶パネルはすでにアップルが購入しており、今後も液晶パネル分野で競争力を持つ技術となるだろう。同時に、IGZOは実は有機ELにおいてもバックプレーン(半導体駆動基板)として有用な要素技術となりうる。あまり指摘されていないが、郭会長の真意は、実はそちらにこそあるのではないか、という憶測も成り立つ。

郭会長は「シャープは長年にわたり、イノベーションを起こす企業であることを証明してきた」と述べた。確かに以前のシャープは、液晶ビューカム(ビデオカメラ)やザウルス(携帯情報端末)など、ユーザーをわくわくさせるようなイノベーティブな製品を次々と生んできたが、かつての製品企画開発力が鳴りをひそめてしまったことも、苦境を招いた根本原因の一つだ。

社会問題の解決に役立つという高い志・強い使命感と起業家精神を持って、自らがわくわくしながらものづくりに真摯に取り組まなければ、単なる技術革新を超えたソーシャルイノベーション(社会改革)を生み出すことは難しい。

鴻海側は会見で、ニトリに売却済みで賃借中の大阪・阿倍野区のシャープ本社ビルをできれば買い戻して、シャープ創業者・早川徳次氏の記念館をつくりたいと表明した。

本社所在地は、早川氏がシャープ前身の早川金属工業研究所を設立した地であり、シャープの歴史上、重要な場所であることを理解したうえでの発言だ。

筆者も賛成だ。シャープの再建には、創業者を尊び、人心の結束を図ることで、早川氏が創業の精神として抱いていた「常に他より一歩先に新境地を拓く」「他社がまねするような商品をつくる」という強い思いや使命感を取り戻すことが、何より必要だと考えるからである。

(構成=小山唯史 図版作成=大橋昭一)
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