自社工場で製造した大型液晶パネルの販売先は、自社ブランドのテレビ(AQUOS)に組み込む社内需要またはテレビメーカーへの外販となる。堺工場が建設されるまでは、両者のバランスを取ることが重要であったとみられるが、大規模な供給能力を持つ堺工場の稼働により、操業度向上・投資回収のために本格的な外販に乗り出すことが必要となった。
グローバル液晶パネルベンダーへのビジネスモデルの転換には、シャープ製パネルを長期購入するテレビメーカーやパネルメーカーを増やすエコシステム、いわば「シャープ陣営」の形成が求められる。テレビ市場で競合する企業にパネルを販売するという、難易度の高いモデルであり、顧客との信頼関係や人的ネットワーク、いわゆるソーシャル・キャピタルの醸成が欠かせない。
最終セット製品を兼営しつつ、「グローバル・デバイスベンダー」としての地位をこれまでに確立した成功事例は、薄型テレビとスマートフォンの世界最大手に君臨し、かつ半導体、液晶パネル、リチウムイオン電池などのキーデバイスでも世界屈指の大手ベンダーであるサムスン電子グループだろう。
シャープは当時、国内の大手テレビメーカーである東芝、ソニーとパネルの供給で矢継ぎ早に提携した。これは、シャープ陣営形成に向けた正しい戦略だった。
しかし、やがて東芝とソニーはシャープとの提携を解消する。一部では、シャープが家電エコポイント制度などの特需で品薄の大型パネルを自社テレビ向けに優先的に振り分けたため、両社の反感を買ったとの報道もあった。販売先を失ったシャープは、膨大な在庫を抱えることになる。大型液晶パネルの需給が逼迫したその局面で、シャープはそれを自社に回すことをあえて我慢してでも、将来を見据えた顧客確保に意を注ぐべきだったのである。
シャープは、12年に事業再構築策の一環として、堺工場を鴻海グループとの共同運営に移行した。鴻海のネットワークによる新興テレビメーカーの米ビジオなど新たな販路開拓などが奏功し、短期間で黒字化したという。これは、在庫増大の原因が、過剰投資という生産能力の側にあるのではなく、販売先の確保の問題にあったことを明確に示している。
堺工場は世界唯一の貴重な第10世代工場であるとともに、敷地の増設余地も大きいため、活用のポテンシャルは大きい。一方、中小型液晶の生産拠点が立地する三重県では、これまで培われてきた地域社会との協力関係やソーシャル・キャピタルが工場運営にとって貴重な要素であり、今後も大切に維持すべきだろう。