「不法移民」を標的に怒りをかき立てる
さらに中国や日本、メキシコを「敵」に見立て、「敵」から米国を奪還できるのは自分しかいない、と訴える。富裕層に所得が集中する経済格差に「怒り」を持つ有権者は多いが、その矛先を外国の「敵」に向け、そして自分が大統領になれば、「米国を再び偉大な国にする」と連呼する。
米民間世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの最新調査(3月4日付)によると、有権者がトランプ氏を支持する最大の理由は「政治家ではない、アウトサイダー性」。そして、「有能なビジネスマンであること」「自分の考えを歯に衣着せず話すこと」「移民問題」と続く。
米国の雇用はかなり改善しているが、中間層はオバマ政権が喧伝する景気回復の恩恵とも無縁だ。米政府は、ウォール街やシリコンバレー、大企業の利益を優先させ、製造業軽視の政策を推進。「持つ者」が「さらに持つ者」になるなか、中間層は弱体化の一途をたどっている。環太平洋連携協定(TPP)も、さらなる雇用喪失につながるという危機感が広がっており、トランプ氏は「TPP反対」を打ち出す。
仮にトランプ氏が大統領になっても、グローバル化の反転など無理な話だが、「『怒り』をかき立てて票につなげるのは効果的な選挙戦略だ」とカリフォルニア州ロヨラ・メリーマウント大学のマイケル・ジェノビース教授は言う。
「トランプ旋風」を支えているのは、主にブルーカラー層の白人有権者だ。ジェノビース教授によると、米国では、歴史的に少数派がスケープゴートにされる傾向がある。1920~30年代はアイルランド系とイタリア系の移民。そして今、トランプ氏が狙い撃つのはメキシコ系移民だ。
「自分たちの問題を誰かのせいにするやり方だ。白人有権者の間で、米国が非欧州系移民の手に落ちてしまうという『怒り』が渦巻いている」
人種的反発を支持の背景にしているのはトランプ氏だけではない。トランプ氏に次ぐ勢いのあるテッド・クルーズ候補(45歳)は、保守派の草の根運動「ティーパーティ」の支持を受けている。「ティーパーティ」は参加者の多くが白人で、医療保険制度改革「オバマケア」の撤廃を叫ぶ。2009年にはオバマ大統領への人種差別的な誹謗を行うなど、偏狭な主張で知られている。