軽減税率の1兆円の財源探しは相当苦労する
【塩田】安保法案に反対した野党側は安保法の廃止法案を国会に提出する計画です。
【谷垣】野党側は廃止法案で徹底的に論戦を挑むつもりだったのに、今年の通常国会ではほとんど議論はありません。今年に入って北朝鮮が核実験とミサイル発射を行ったことが野党側の議論を難しくしているのではないかと私は見ています。その論争に入っていくと、野党側は廃止の論理を立てにくくなるのではないか。ミサイル防衛システムの重要度が高まり、それを日本だけで維持できるかどうかが焦点となってきました。やはり日米同盟によって初めてミサイル防衛システムが可能になると考えている人が多いと思うんです。
去年の平和安全法制をめぐる議論でも、憲法解釈の問題など、争点はいろいろありましたが、アメリカの戦争に巻き込まれるのではないかというのがつねに安保論争のメーンテーマでした。リアリスティックな安全保障議論のテーマではないと思いますが、「巻き込まれるのならやめとけ」という議論が根強くあります。ところが、対北朝鮮のミサイル防衛を日本だけでやるのかという話になります。つまりこの動きは現在、「巻き込まれるならやめとけ」という議論に対する最も強力な反論だと私は思います。
この点については、もちろんいろいろな考え方があると思いますが、今国会で野党側は「安保法廃止」と掛け声は大きいけど、現実にそういう議論がないのは、去年の安全保障の論争が、ちょっと虚構の上の対立だったからではないかと私は思っています。
【塩田】2度目の安倍政権は内閣支持率も全体的に堅調です。1年前の2015年1月にインタビューしたとき、谷垣さんは「安倍首相は仕事が早いのが特徴。ただ、やや前のめりになるところも」と話していましたが、2度目の安倍首相の政権運営をどう見ていますか。
【谷垣】安倍さんはやりたいことがはっきりしていて、それなりに成果を上げてきたことが、支持率を確保できた原因だろうと思います。それと裏表の関係で、やりたいことをやろうと思うと、前のめりになることはあります。だけど、最後はリアリストのところが出てきます。ときには前のめりになりながら、最後はリアリズムに徹してやっていくという点で、それなりに国民の評価を得ているのだろうと思います。
一方、野党が存在感と方向性を発揮できていないことがわれわれを助けている面もあります。安倍政権はそれなりに成果を上げてきたのですが、そっくり返っていいのかというと、そうでもない。相手が存在感を発揮できていないために、こちらが勝っているという面があると思います。
【塩田】軽減税率導入問題についてお伺いします。安保国会の後、昨年暮れに首相官邸、与党の自民、公明両党の間で大きな議論となり、協議の結果、2017年4月の消費税率10%実施に合わせて、外食と酒類を除く食料などに8%の軽減税率を適用することを決めました。自民党総裁時代に当時の野田佳彦首相と「3党合意」を成立させ、消費税増税を主導しましたが、今回の軽減税率導入の決定をどう受け止めていますか。
【谷垣】政策的に言えば、二つの問題があったと思います。一つは財源をどうするか。当初、自民党は軽減税率の導入に伴う税収減の財源として4000億円くらいを考えていましたが、公明党が要求し、落着したのは1兆円くらいが必要という線です。もう一つは何を軽減税率の対象とするかです。あまり業者が混乱するのは困る。税として社会が混乱するような税はつくれません。落とし所として、外食を除くことになりましたが、まあまあのところかなと思います。1兆円の財源が必要となり、財源探しはこれからですから、相当、苦労があると率直に思っています。