時間とともに、お金も「有限」のものだ、という鉄則を親は子供に繰り返し伝えていかなければなりません。私自身もそうしました。
その意味では、アメリカは子供に金銭教育をするにはいい環境でした。30代の頃、私は家族を引き連れてアメリカに渡り、ハーバード大(ボストン)で教鞭(きょうべん)をとっていました。
子供たちが通った地元の小・中・高校では、修学旅行の費用の一部を生徒自身に稼がせる伝統がありました。フロリダの農家から直接オレンジを仕入れ、近隣の住民に子供たちが売るのです。やりくりして利益を出すまでのプロセスを実体験して、お金を稼ぐことの大変さや手にしたときの達成感を味わわせます。
また、私が住んでいたエリアの家庭では、自宅の庭で育てたトマトなど農産物を子供に1個25セントで売らせたり、庭の芝刈りなどをさせたりして、労働の報酬としてお駄賃を与える文化がありました。私も、1枚25セントで、原稿のタイプライター打ち(A4程度)をさせたことがあります。もっとも、子供も少し賢くなると「こんなに働いて25セントは安すぎる」とストライキを起こされたことがありますが(笑)。
ともあれ一生懸命働くと、自分の生活が少しずつだけれど豊かになることを実感できる経験は、何事にも代えられないと思うのです。
開成高校、東京大学工学部卒。システムエンジニアとして日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。退社後、東京大学大学院工学系研究科修士課程進学、同博士 課程修了。米国ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、同併任教授(在任中ベストティーチャーに選出)、東京大学大学院教授を経て、2011年より現職。著 書に『ほめ力』『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』など多数。