原人生活でまず変わったのは、体だった。規則正しい生活と山仕事、新鮮な野菜中心の食事で、80キロあった体重は50キロ台にまで落ち、30%以上あった体脂肪は半分以下に。入植したころは「仕事をしなくていいんだろうか」という強迫観念があった。でも畑仕事や鶏の世話、薪割りに、ログハウスづくり……日々の暮らしを楽しむうち、きれいさっぱりなくなっていた。

「電気もガスもパソコンも使う普通の生活だよ。ただ、東京での生活に比べると余計なモノがないだけ。まぁ、いまの収入では、クルマもパソコンも買えないんだけど、不自由はないね」


1.ログハウスの内部。すべて手づくり。2.来客はかまど料理でもてなす。3.自信作のツリーハウス。4.サウナもつくった。2時間で70度まで加温できる。5.燃料はすべて薪。敷地内で伐採し、冬に備えて乾かしておく。6.棟上げや除雪に活躍したユンボ「鉄人君」。

都内で暮らしていたとき少ない休みを利用して釣りやキャンプに行った。けれど「何をするにもお金がかかった」と守村さんは振り返る。

「息抜きにバイクで走るっていってもすぐに渋滞につかまって逆にストレスがたまっていたから」

締め切りの合間のプラモデル作りも長い間の趣味だった。

「プラモデルは実物の48分の1ほどのスケールでしょう。でもログハウスは、1分の1。いまは生活と趣味と仕事が、完全に一体化しているからストレスがないんだろうね」

原人生活といっても、特別な制約があるわけじゃない。気負いもないし、もちろんムリもしていない。ネタとしてつくったログハウスにハマり、余計だと感じたモノを省いた先に、たまたまストレスとお金から解放された原人生活があったのである。

「昔は100%で仕事をがんばってきたけど、いまは100%で生活を楽しんでいる。実は、何も変わっていないのかもしれないね」

守村 大(もりむら・しん)
1958年生まれ。マンガ家。『万歳ハイウェイ』『あいしてる』『考える犬』など著書多数。47歳のとき、福島県の山中に入植。現在は自給自足生活を続けながら、その様子を「新白河原人」としてモーニング誌で連載中。
(小倉和徳=撮影)
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